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第20話
小さな変化 3
「あ、そうだ。雪夜さん、歯磨きしたらゲームしませんか?一緒に回ってほしいクエストがあるんですよ、えっと……なんだっけ、イベントのやつ」
ボーッと家族のことを考えていた俺とは違い、洗面所で歯ブラシを手にした星くんはそう言って俺を見る。
基本的にアナログな遊びを好む星だが、そんな星くんが最近ハマっているのはスマホのアプリゲーム。いくつかお気に入りのゲームがあるらしく、星は空いた時間でせっせとなんかの街を開拓したり、必死にどっかから脱出しようと試みているけれど。
その中で、俺に協力を求めなきゃならないゲームが1つある星くんは、歯ブラシを咥えて方頬を膨らませながら首を傾げて。
「はへへふは?」
愛くるしい姿でそう聞いてきた星に、俺はクスッと笑って返答してやる。
「ダメじゃねぇーよ。今出てるコラボイベントのクエストなら、確か弘樹と康介が適性キャラ持ってっからアイツらも連れてくか。あの2人なら、この時間でも起きてるだろうし」
「はひはほぉーほはひはふ」
「ん、どういたしまして。あのバカ2人は金ねぇーくせに課金勢だからなぁ、無課金勢の俺たちとしては助かるけど」
歯磨きしつつも礼を言っているように思える星くんだが、本当に俺が星から礼を言われているのかは不明だ。けれど、なんとなく聞き取り勝手に解釈した俺の返事に星は笑顔を見せたから。
発音がままならない不格好な言葉でも、こうして会話が進んでいくことに俺は小さな喜びを感じた。
ソロプレイもあるが、協力プレイも可能なゲーム。
もちろん俺もやっているし、俺のダチの浅井 康介(あさい こうすけ)も弘樹もやっているアプリゲーム。
ゲーム内でフレンド登録された相手のキャラを一体助っ人として活用できることもあり、俺たちは地味に身内で楽しんでいたりするけれど。
ガチャ限定のキャラがいたり、イベントで入手できるキャラがいたりと無課金勢の俺と星くんは課金勢のバカ犬2人にあやからせてもらっている。
今回のコラボイベントのクエストはなかなかに難関なステージだからか、ソロプレイで挑む自信がないらしい星くんは歯磨きを終えた後に寝室へ移動しベッドに転がって。
「んー、やっぱりオレのだと適性キャラがいない……どのキャラで挑戦すれば一緒に回る人たちに迷惑かけずに済みますか?」
自身のスマホを手にし、どうしようと悩む星の隣りに俺も転がり星のスマホの画面を覗き込む。
「属性とギミックがあえば問題ねぇーから、とりあえずコイツで行け……ってかさ、星くんレアキャラいっぱいいんだから進化させてやれよ」
「素材の使い方がよく分からないからそのままにしてあるんですけど……あの、どうやって進化させればいいんですか?」
物欲がないからなのか、星はガチャ運がいい。
俺も悪い方ではないけれど、星くんは高確率でレアリティの高いキャラを出す。しかしながら、その使い方を分かっていない星くんは、宝の持ち腐れ状態。
「コレとコレ使って合成して、んでレベルマックスにした後に進化選んでここタップすんの。これで攻撃力とかアップしてるから、少しは使いやすくなったはず」
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