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第22話

小さな変化 5 「弘樹からOKきてますけど、浅井さんからはお返事きてますか?」 「あー、ちょっと待ってな……LINEきてるわ、スタンプ連打で」 自分のスマホをベッドサイドに置きっぱなしにしていた俺は、星くんそう言われ通知を確認したけれど。俺のスマホには、康介から大量のOKスタンプが送られていて。 相変わらず彼女もいなけきゃ、一夜限りを過ごす相手もいない康介。これなら、まだ弘樹の方が康介よりも充実した生活を送っているんだと思うと、俺は康介を哀れに思うばかりだった。 「メンバー4人揃ったので、クエスト行きますね」 LINEで募った弘樹と康介が加わり、俺もゲームのアプリを開く。するとスマホの画面上にそれぞれ選んだキャラが一体ずつ表示されており、4人揃ったところでクエスト開始となった。 「コンティニュー無しのクエストだから慎重にいかねぇーと、だな」 「敵は火属性でバリア体質なのでターン数はかかると思いますけど、オレ以外は適性キャラだからきっと大丈夫です」 ダブルベッドに2人で転がりスマホで遊ぶ俺と星、ヤッた後の恋人を放ってゲームする弘樹、そして一人寂しくスマホを握り締めているであろう康介……ネット上のオンラインだから許されるのものの、この状態で実際に4人で集まっていたらなかなかにカオスだと思う。 「いい感じですね、やっぱり協力プレイの方が適性キャラ使えるから楽に回れます」 「そうだな」 スマホの画面に集中し、星はボス戦までの道のりを楽しみながら進んでいくが。このクエストの難関はボスが出てきてからの3連戦で、1回のクエストで同じボスを3回倒さないと勝利したことにならないのが辛みだ。 「んーっと、こっちに狙いを定めて……やった!ゲージマックスでコンボも繋げた!」 「すげぇーじゃん、星くん」 考えたくないことを頭の片隅に追いやり、目の前にある幸せなひと時に没頭する時間。 難しいと言いつつも確実に敵キャラを倒していく星くんの横で、俺も自分のスマホを手に持ち適当にプレイしていくけれど。 「……ナニ?」 自分のターンではない星くんからの視線が気になり、俺は星にそう問い掛けた。 「なんでもないです……ただ、やっぱり雪夜さん疲れてるんじゃないのかなって思って」 俺の口数が少ないわけではないし、俺は充分星くんに癒してもらっているはずなのに。家に入る前、玄関で吐いた溜め息の意味を見抜かれそうになった俺は、内心ヤバいと思ってしまったから。 心配そうに俺を見る星を抱き締めた俺の脳内は、ゲームどころじゃなくなった。 「んなことねぇーよ、確かに帰ってきてすぐは疲れ切ってたけど……でも、今はお前といるから大丈夫だ」 ……そう、大丈夫。 本当は心の中でモヤモヤした感情が渦巻いているけれど、そのことに星は一切関与していないのだから。 星を抱き締めて大丈夫だと告げること以外に、今の俺ができることはなくて。出てきそうな溜め息を呑み込み、俺はなんとか笑顔を保とうとしていた。

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