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第23話

小さな変化 6 アプリゲームをやり込んでいるうちに、スマホを持ったまま眠ってしまった星の額にキスをして。星とは違い寝付くことができない俺は、独りベッドから抜け出した。 暗闇の中、ライトを照らすことなく静かに寝室を出て。静まり返っているリビングの電気すら点ける気がおきずに、スマホの僅かな灯りを頼りに俺はソファーに腰掛けると煙草を手に取って。馴染みのジッポで煙草に火を点け、一息目の煙りを吐き出していく。 今日の朝は、寝起き一発目から星くんとすげぇーヤりたかったのに。帰ってきたらそんな気が起きるどころか、俺は星がソファーで眠っていたことに安堵していたんだ。 けれど、結局アイツは起きちまって。 そのまま寝てて欲しいなんて言えるわけもなく、俺はとりあえず自分の気持ちを切り替えて星から癒してもらったけれど。 俺が眠れないのは、仕事での出来事が関係しているから。俺の帰宅後すぐに、星に気を遣わせてしまったのもソレが原因で。 正直、たまには独りの時間が欲しいと思ってしまった俺は、星に申し訳なさを感じているのだが。 星には話せない類いの問題を俺が抱えているこんな時は特に、すれ違いの間でできる独りの時間ではなく、独りでゆっくり悩んで考えることができる時間が欲しくて。 怒っているわけじゃなければ、星と喧嘩しているわけでもないのに。オレは闇の中で煙草を吸い、切り替えた気持ちを再度呼び起こしていた。 「……高久 飛雅、か」 親子揃って問題児、戸田先輩が言っていたことは何一つ間違ってはいなかった。 まだ小学1年生だと言うのに飛雅のボール捌きは見事なもので、ズバ抜けた才能とセンスを持ち合わせていたのだが……問題は、飛雅の子供離れした精神面だった。 小1、しかもヤツらは夏休み中。 周りのスクール生はワイワイガヤガヤと、暇さえあれば喋るし動くし体力モンスターみたいなんだけれど。その中で飛雅1人だけが、周りの子供たちと遊ぶこともせず見下したような目を向けていたのだ。 普段一緒にトーレニングしているスクール生たちと、今日のメンツは異なるからか、今日は馴染めなくても仕方ないと最初のうちは思っていたけれど。 トーレニングを開始して数十分が過ぎた頃、飛雅の冷めた感情が徐々にプレーに出始めて。飛雅自身がゴールを決めても、周りのスクール生がいくら飛雅のことを凄いと讃えても。飛雅は一切笑うことがなく、まるでロボットのような眼差しで俺だけを見ていたから。 才能があるのに楽しんでプレーできない飛雅は、戸田先輩から問題児だと言われても仕方のない生徒だと感じてしまった俺は、トーレニング終了後に飛雅と少し話をしたけれど。 問題があるのは飛雅だけでなく、飛雅の母親も問題児だと言うことを俺はその時忘れていて。サッカーが楽しくないのかと訊ねた俺に、飛雅は少しだけ瞳を潤ませながらこう言ったのだ。 『サッカーをするのは茉央との決まり事、だから楽しいとかそんな感情ねぇよ。俺は、茉央の言うことだけ聞いてればいいんだから』 幼い心には重い言葉、それを本人の口から言わせてしまったことを俺は今更ながらに後悔している。

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