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第24話

小さな変化 7 飛雅の母親は、高久 茉央(たかくし まお)。 母親から名前で呼ぶように躾られているらしい飛雅は、母親のことを呼び捨ていた。 親との決まり事がサッカーで、やらなければならないことだからやっているだけの飛雅。そんな飛雅に訊ねた俺の言葉は、飛雅からしてみれば愚問だったのだろう。 いくら俺が後悔しても、聞いてしまったものは仕方のないことだけれど。俺の悩みはそれだけじゃなく、実は飛雅の容姿も気になっていて。なんとなくだが、冷めた雰囲気と色素の薄い飛雅の瞳を向けられると過去の俺を思い出してしまうのだ。 好きなサッカーを必死で嫌いになろうとして、何にも興味を持てなかったあの日の自分が目の前にいるかのような感覚。 飛雅の言葉を聞いた後だから尚更そう思うのか、単純に瞳の色が似ているだけなのかは分からないけれど。ただ前回欠席分の振り替えで、飛び入り参加しただけの生徒という扱いは、俺の中でできそうになかった。 そして、もう1人の問題児のことも。 飛雅と話終えた後に、飛雅を迎えに来た母親に俺は挨拶したんだが。子供を迎えにくる格好としては好ましくない露出度の高い服を身に纏い現れた母親は、俺を見るなりこう言って。 『私たち、何処でお会いしてますよね』 コーチと保護者の関係、しかも俺は初対面。 それなのにも関わらず、いきなりそう言い出した母親の対応に俺は正直困り果てた。 とりあえず、その場はコーチとしての対応に専念して。通常よりもかなり長く感じたトレーニング時間は、高久親子の問題を除けば無事に終わったのだけれど。 帰宅しても、食事をしても、寝る時間を等に超えても……妙に引っかかるあの親子に俺の頭は悩まされたまま、星を寝室に残して仕事のことを考えてしまう自分が嫌になる。 星を1番に優先してやりたいのに、今はそれができない自分。家庭の問題を仕事に持ち込まないのは当然だとは思うが、逆もまた然り。 分かってはいたのだが、今日の出来事は俺から余裕を奪うばかりで。俺を気遣ってくれた星に対し、俺は上手く笑えていたのか、いつも通りを繕えていたのか分からなくなった。 それでも、俺のためになんとも星くんらしいサラダを作っていたことや、卵と会話していたらしい星の話を聞いて少しは俺も気が紛れていたとは思う。 弘樹の話も星は嬉しそうに話してくれたし、両親との話やゲームで遊んでいる時も星は楽しそうに笑っていたから。何よりの救いは、アイツの今日の出来事が俺のように悪いものではなかったことだ。 一緒に暮らしているからと言って、お互いが常に同じ気持ちでいることは不可能で。一旦家の外へ出てしまえば、俺も星も各々違う刺激を受けて帰ってくることになる。 それが俺たちにとって良いものなのか悪いものなのかは、お互いに外へ出てみないと分からないけれど。予想もできない外部からの刺激で、俺たちの関係が壊れてしまうことだけは避けたくて。 独りになりたいと思ってしまう時間も、時には必要なものなのかもしれないと……そう思うことで、俺は自分自身の気持ちに整理をつけるしかなかった。

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