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第30話

気づいたこと 4 「……ん、ここ、どこ?」 「俺の膝の上、ついでに言えばソファーで、そんでもって家のリビング」 雪夜さんとひとつになって、力尽きたらしいオレがパッと目を開けた時。寝室いたはずのオレは、ベッドの上からソファーの上へとワープしていた。 産まれたままの姿だった身体もしっかりと服を着ているし、おまけにオレの身体にはタオルケットまで掛かっている。 雪夜さんの膝の上に乗っているオレの頭は心地よいリズムで髪を撫でてもらっていて、オレはまるで雪夜さんの飼い猫みたいだなと思った。 「せっかくの休みなのに、疲れさせちまって悪かったな。身体、辛くねぇーか?」 「ううん、平気……じゃない、けど大丈夫です。それよりね、雪夜さん……オレ、お腹空きました」 心配してくれるのは素直に嬉しいし、行為が終わった後もオレを可愛がってくれる雪夜さんのアフターケアに頬が緩んでしまうけれど。 朝から余計なことを考えていて朝食を摂っていなかったオレは、もうお腹がペコペコのあおむしみたいな状態だから。 いくら食べても、オレは人間だから蛹にはなれないしキレイな蝶になることもない。でも、とりあえず何か口にしたくてオレが雪夜さんにお願いすると。 「カレーうどんとカレーパンならどっち食いたい?」 どっちもカレーがメインの炭水化物2択に、オレは思わず笑ってしまう。それに、オレはとってもお腹が空いているから。どっちも美味しそうだからどっちも食べたいって言ったら、雪夜さんはどんな顔をするんだろうって。 オレは、そんなことを思ったけれど。 きっと雪夜さんはしょうがねぇーなって笑いながら、どっちも作ってくれる気がしたから。 「両方食べたい、です」 欲張りでわがままな意見を言い、オレは雪夜さんを見上げて返事を待った。 「朝からなんも食ってねぇーし、体力使わせちまったもんな。どっちも作ってやっから、お前はここでゆっくり休んどけ」 そう言って微笑んでくれる雪夜さんの表情も、声も、何もかもが、優しさに溢れていることにオレは安堵して。雪夜さんはオレに甘過ぎるんじゃないかって思うこともあるけど、でもやっぱり甘い雪夜さんが大好きだなって思ったんだ。 「じゃあ、お言葉に甘えて……ありがとうございます、雪夜さん」 「どういたしまして。膝枕してやれねぇーから、代わりにクッションやる。ないとは思うけど、こっから落ちんなよ?」 「いくらなんでも、それはないので大丈夫ですよ?」 「お前は机に脚ぶつけて痣作るヤツだからな、家ん中でも怪我しそうで怖ぇーんだよ」 ……それを言うなら、テーブルに嫉妬する雪夜さんだって充分怖いと思います。 とは、さすがに言えないけれど。 ソファーから立ち上がり、髪をヘアゴムで結っていく雪夜さんの姿にキュンとしたオレはニヤけた頬をタオルケットで隠していく。 ソファーに転がり丸まるオレと、キッチンに立った雪夜さん。思えば昨日の夜も、オレはこんなふうに雪夜さんの姿を眺めていたのに。 昨日感じた小さな違和感が、今はどこにも見つからなくて。朝のモヤモヤした気持ちも、今のオレには不必要なものに変わっていた。

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