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第31話

気づいたこと 5 「……なるほどねぇ、雪夜は相当バカなのかしら?」 「オカマ、うるせぇーよ」 「久しぶりの営みに燃え上がって、せっかくの休みを1日潰した挙句に、次の日のデートが恋人の職場なんて有り得ないわ」 昨日は雪夜さんがお昼まで寝ていて、その後にえっちなことをして今度は逆にオレが寝ちゃって。2日目のカレーは存分に楽しむことができたけれど、昨日のオレたちは家から一歩も出ずに過ごしてしまったから。 今日はデートしようって雪夜さんと2人で決めて訪れている場所は、大きな溜め息を吐いて呆れ返っているランさんのお店で。 「あの、それはオレが雪夜さんにお願いしたから職場に来ることになっただけで、雪夜さんが悪いわけじゃないんですけど……」 「ほらみろ、俺はお前が思ってるほどバカじゃねぇーっつーの。今日は星くんが客の気持ちに立って考えたいことがあるっつったから、わざわざデートで来てやっただけだ」 ランチタイムが過ぎた店内は、静かなBGMだけが流れている。お客さんはカウンターにいるオレと雪夜さんだけだけれど、オレは久しぶりに店員ではなくお客としてお店にいられることが嬉しかった。 でも、そんなオレとは違う人たちが2名いて。 ランさんからバカ呼ばわりされた雪夜さんのご機嫌はななめで、雪夜さんはランさんを睨みつけているし。ランさんはランさんで、不機嫌な雪夜さんを見てやっぱり呆れていて。 「いつまで経っても、こういうところは成長しない男なんだから。私にバカって言われたくらいで機嫌悪くなるなんて、貴方やっぱりバカよ?」 「だーかーらッ、うっせぇーっつってんだろ。オカマは人の話も真面に聞けねぇーのか?今説明してやったばっかだってのに、バカはテメェの方だろうが」 「私は自分でバカなことくらいちゃーんと把握してるもの、雪夜と一緒にしないでちょうだい」 「誰がいつ、テメェと同じバカになったんだ。誰がオカマになんかなるかよ、アホくせぇーにもほどかある」 2人とも、大人な時はしっかりした大人なのに。 どうでもいいことで言い合いしている今の雪夜さんとランさんは、まだまだ子供なオレから見ても子供っぽい喧嘩を繰り広げているけれど。 「……でも、雪夜さんって顔のパーツ整ってるから女装してもきっと今と変わらず美人さんだと思いますよ?」 このオレの何気ないひと言で、言い合っていた2人の声がぴったりと止まって。 「……星、くん?」 「雪夜の女装ねぇ……あるわよ、とっておきの1枚っ!」 恐る恐るオレを見る雪夜さんと、少し考えてから一気にテンションが高くなったランさん。オレは1人だけ意味が分からず、キョトンとして雪夜さんの顔を見てしまうけれど。 「最悪、マジで……いや、お前は何にも悪くねぇー……って、言ってやりてぇーところだけどムリだ。星くん、お前地雷踏みやがったな」 「え……オレ、何かダメなこと言いました?」 スタスタとお店の裏に隠れてしまったランさんと、カウンターに突っ伏してしまった雪夜さん。でも、雪夜さんはブツブツと呪文も唱えているだけで、オレの話を聞いてはくれなかった。

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