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第33話

気づいたこと 7 事の詳細は、こうなんだ。 中学時代に素行が悪かったらしい雪夜さんは、体育祭の応援合戦で女装する役に抜擢されたらしい。その時の雪夜さんは持ち前のやる気のなさで、体育祭当日は欠席するからどうでもいいと思っていたみたいだけれど。 高校入試は内申点も大事だからとランさんにお説教された雪夜さんはなくなく、体育祭当日学ランを着て学校に行ったんだって。 午前中の種目は体操着で出て、午後からの応援合戦のために教室でまた学ランに着替えようとした時。クラスの男子に体操着と学ランを奪われ、取り返そうと乱闘騒ぎになった頃、担任の先生と複数の女子生徒に捕まった雪夜さんは暴れ回ることも出来ずに女装を受け入れるしかなかったんだそうだ。 でも、そのおかげで雪夜さんのクラスは応援合戦で見事勝利し、雪夜さんの内申点も問題なくなったらしいんだけど。 雪夜さんがそんなこんなやってる間に、雪夜さんを心配していたランさんはこっそり体育祭を覗きに行っていたらしくて。その時にランさんが偶然撮った1枚の写真が、今オレの手の中にあるんだから世の中って不思議だ。 「……家宝にしますね、雪夜さん」 「やめろ。頼むから、そんな大事そうにすんなよ……ってかさ、星くんすげぇー笑顔じゃん……今度こそ燃やしてやろうと思ってたのに、もう俺の人生終わったわ」 「1枚は本当に燃やしたわよ、過去の貴方がね。でもしっかり焼き増ししておいたもう1枚を今まで保管してあって良かったわ」 「よくねぇーよ、クソが」 完全にメンタルが崩壊したらしい雪夜さんは、1人しょぼくれながら煙草を咥えているけれど。 「雪夜さんが本当にこの写真をオレに見られたくなくて、ランさんを止めようと思ったら……ランさんの動きを、雪夜さんが封じることはできましたよね?」 「確かにそうね、でも雪夜はそれをしなかった……きっともう、最初から心の何処かで諦めがついていたのよ。当時の雪夜と比べると、随分と大人になったものね」 オレとランさんに言いたい放題言われても、今の雪夜さんは暴れたりしない。多少口が悪いことろが目立つ程度で、基本的に雪夜さんは優しい人だから。 「過去の雪夜さんも、今の雪夜さんもオレは大好きです。だから、そんなに落ち込まないでください……ね、雪夜さん?」 内心、オレは雪夜さんのことを少しだけ哀れに思いつつも、カウンターに突っ伏している雪夜さんの頬をつついて。 「ったく、んな可愛い顔して覗き込んでくんじゃねぇーよ……犯すぞ、バカ」 「っ、ちょ…ん、ぁ」 一瞬、殺気の混じりにキラリと光った雪夜さんの瞳に捕まり、そのまま頭を抱えられて唇を暴れたオレが雪夜さんから殺されることはないけれど。 「若いっていいわねぇ、それにしても絵になる2人だこと……記念に1枚、2枚っと」 のほほんと呟きながらもスマホを手に取ったランさんは、オレと雪夜さんの姿をカシャカシャって連写していて。 雪夜さんは他人に見せられない新たな黒歴史を作り、オレもその共犯としてランさんのスマホのデータにしっかりと収まることになってしまったんだ。

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