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第34話

気づいたこと 8 とてつもなく長く感じたキスの後、唇を離した雪夜さんに見つめられてオレの時間は止まりかけたけれど。オレは、ランさんの前で堂々と口付けを披露したことが恥ずかしくて……羞恥心で赤くなった顔を更に赤くし、雪夜さんの肩を数回パンチした。 でも、オレがパンチしたくらいじゃ動じない雪夜さんはただただ優しく微笑むだけで。怒りを通り越して拗ねっ子モードに突入したオレは、雪夜さんに背を向けてランさんから貰った写真を見つめることに集中する。 よーく見ると、中学時代の雪夜さんはあどけなさが残っているのに今よりも冷たい印象を与える大人びた子供だなってオレは思った。 無理矢理させられた格好だからってのもあるのかもしれないけれど、不機嫌だけでは済ませられない冷めた瞳が気になってしまう。 昔はヤンチャな人だったってことは話に聞いてたし、以前兄ちゃんの部屋で見つけた高校時代の雪夜さんの写真も結構冷めた目付きをしていたように思う。でも、きっと中学生の時の雪夜さんは本当に素行が悪かったんだって。 パッと見た時は服装や髪型の可愛さや、おへそが見えるセクシーさに目がいっていたけれど。段々と気付かなかったことに気づいてきたオレは、雪夜さんと歳の差があって良かったのかもしれないと思い始めていた。 ……だって、この時の雪夜さんとオレがもしも同い年で、もしもクラスメイトだったなら。オレの影が薄過ぎて、オレは雪夜さんの恋人になるどころか、存在すら認識してもらえないような気がするから。 「さてと、お遊びもこのくらいにしておきましょう?」 オレが自分の世界の殻に閉じこもっていると、オレと雪夜さんのやり取りを見ていたランさんがクスっと笑ってそう言って。 「誰の所為でこうなったと思ってやがんだ。最初からお前がアホなテンションで突っかかってこなかったら、俺が星くんに怒られることもなかったってのに」 そっぽを向いてるオレの頭を撫でながら、雪夜さんはランさんに反論しているけれど。オレが怒っても拗ねても、雪夜さんは無理にオレのご機嫌取りをしようとはしないから。 オレがこうなることを最初から分かってて、それでも雪夜さんはランさんの前でオレとキスしたんだって……若かりし頃の雪夜さんを見つめ、こんなに可愛い子がどうしたら数年後に恋人にお仕置きをするような人に変わってしまうんだろうと、オレは1人で頭を悩ませていく。 「ごめんなさいね、久しぶりに雪夜の顔を見たら舞い上がっちゃったのよ」 「俺とお前がこんなバカ騒ぎしてるだけじゃ、いつまで経っても星が客の気持ちになれねぇーだろ。なんの為にここにいるんだか分かんねぇーしな、ランはさっさとメシ作れ」 「分かったわ。その間に貴方は星ちゃんと仲直りしておくこと、いいわね?」 2人の言葉のやり取りは、オレを気遣ってくれるもの。厨房へ消えていくランさんも、最初の目的を告げた雪夜さんも……オレの考えを汲んでくれて、そうして今ここにいるのに。 くだらないことで拗ねている自分が情けなくなってきたオレは、温かな瞳でオレを見る雪夜さんと向き合うことにした。

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