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第35話

気づいたこと 9 「怒らせるようなことして悪かったな。でも、これでお前と俺はお相子だ……その写真は星が持ってていいから、俺には極力見せないでくれ」 「……分かりました」 振り返りたくない過去、それはどんな人にも少なからず存在する。思春期真っ只中の過ちは、大人の階段を登るオレたちにとって大きな爪痕を残してしまうけれど。 オレの知らない過去がある雪夜さんをもっと知りたいと思ってしまうことは、そんなに悪いことなんだろうかと考えてしまう。 同じ人なのに、同じ色の瞳なのに。 年月が違うだけで、こんなにも醸し出す雰囲気が違うなんて……1枚の写真がオレに与える感情は、あまりにも多かった。 でも、やっぱりなかったことにはしたくなくて。 雪夜さんには内緒で、オレは家に帰ったら宝物をしまう木箱の中にこの写真を入れておこうと思ったんだ。 そんなことを考えてオレが黙り込んでしまったから、店内はとても静かで雪夜さんが吸う煙草の紫煙がゆらゆら漂っている。 けれど、それもすぐに換気扇に吸い込まれていくから。オレは雪夜さんの横顔を眺めて、雪夜さんがどんな気持ちでこの席に座っているのかを訊ねてみることにした。 「雪夜さん、雪夜さんはこのお店に何を求めていますか?美味しい料理、それを充分に楽しめる空間……色々あるとは思いますけど、雪夜さんがこのお店に求めるものってなんですか?」 いつまでも過去の雪夜さんを見つめているわけにはいかなくて、ここに来た目的を考え始めたオレは直球で雪夜さんに問う。 このお店に来店するお客様の姿を見ているオレは、ある1つの答えを感じているんだ。でも、それが正しいのかどうか分からなくて……その答えを知るために、オレは休みを利用してお客様の立場にいるけれど。 「あー、なんだろうな……んなこと考えてこの店利用したことねぇーから、分かんねぇーってのが本音だけど。強いて言うなら、アイツがいるからじゃねぇーの」 「そう、ですか……やっぱり、オレの考えは間違ってないのかもしれないです」 「どういうことだ?」 詳しい説明なしに、勝手に問い掛けて勝手に答えを出したオレに、雪夜さんは不思議そうな顔をして煙草の火を消していく。 「このお店には、ランさんの笑顔を求めて来るお客様が多いんです。もちろん、お客様は食事をするために訪れるんですけど……でも、それだけじゃないんですよ」 「あのオカマ目当てで、客はわざわざここに足を運ぶってことか?」 「うん。カップルや家族連れ、複数人で来店されるお客様はそれぞれ会話を楽しんだりしながら食事をされることが多いんですけどね。おひとり様の場合、カウンターでランさんと話をするために来店されるんです」 美味しい料理と何気ない会話、カウンターを挟んで作られる境界線の向こう側とこちら側。以前、オレがまだ学生の時にランさんに言われたこと。 癒しのエッセンスとは、どんなものなんだろうって。仕事中、ずっと考えていたことをオレは今日明確にしたくて職場に訪れている。

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