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第38話

気づいたこと 1 (雪夜side) 星くんに知られたくなかった黒歴史をランに暴露され、新たな歴史を作ってしまった休日が過ぎ去り、やってきたのは仕事漬けの5日間だ。 なんだかんだで俺の隣りで笑う星に癒されて、考えたくないことを考えなくていい時間は終わりを告げてしまった。そして、俺は再び高久親子の問題と向き合わなければならなくて。 重苦しい気分のまま出勤したオフィスで、俺は戸田先輩が出勤するのを待っていたけれど。 「おはよう、イッシー」 「……ッス」 「イッシー元気なさ過ぎ、元気な挨拶は基本中の基本だろ?コーチが出来てなくてどうすんだ、白石」 元々持っている俺のポテンシャルが悪い方に発揮され、やる気のなさが全開でディスクに突っ伏していた俺は戸田先輩から先に挨拶をされてしまい、注意を受けることになってしまった。 自分でも良くないことだと理解はしているが、挨拶云々よりも俺には気になる問題がある。しかし、己の非は素直に認めて俺は態度を改めた。 すると、戸田先輩はニヤリと笑い俺の肩に手を乗せて。 「仕事前の一服、付き合えよ」 無駄にイイ声で言われた言葉に俺は頷くしか術がなく、一言だけ告げて喫煙所へと動き出した戸田先輩の後を追う。 普段より出勤時間が早かったように思う戸田先輩、時間にゆとりを持って行動した裏には一体どんな意図があるのか俺は妙に考えてしまう。 事務所があるオフィスの同じ階に喫煙所はあるものの、このスクール校でスモーカーなのは俺と戸田先輩だけで。ある意味2人きりになれる場所まで誘導されてしまった俺は、今から大説教が始まるのではないかと身構えていたんだが。 無言のまま喫煙ブースの扉を開けた戸田先輩は、スーツの胸ポケットから煙草を取り出し火を点けていく。そして、流し目で俺の方を見るとなんとも言えない溜め息を零して。 「……白石さ、飛雅のこと気になってんだろ。お前なら必ず俺に話聞いてくると思ってな、可愛い後輩のために早めに出勤してやって正解だった」 思ってもみなかった言葉が戸田先輩から発せられて、説教をされるんじゃないかと思っていた俺は酷く反省する。 「申し訳ありません。でも、先輩の心遣いに感謝します……要マークした高久親子の件について、相談したいことがあるのは確かです」 勤務時間外でも、考えていた親子のこと。 しかし、独りで悩むよりも直接指導にあたっている戸田先輩に話をした方が解決策が見つかる気がしていた俺の行動を読んでいたらしい戸田先輩に、今の俺は感謝しかなくて。 「化け物クラスのスクール生、俺も最初アイツを見た時は驚いたってもんじゃなかった。だから、白石の気持ちは良く分かるんだよ」 吸い込んだ紫煙を吐き出し、戸田先輩は俺に優しく微笑みかける。先輩に遠慮して一向に煙草を吸い始めない俺に、戸田先輩は視線のみで俺の行動を指示してきたから。 妙な緊張感から解き放たれた俺は、先輩の隣りに並び自分の煙草を取り出して火をつけた。

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