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第40話

気づいたこと 3 「飛雅の家庭事情は複雑で、飛雅と母親は数年前から父親と別居しているそうだ。夫婦の問題に、飛雅は巻き込まれている」 「飛雅が周りの生徒と同じように笑えないのは、家庭環境の問題ってことですか……」 「夫婦仲の善し悪しが、子供に影響するってのはどうかと思うけどな。竜崎コーチの言う通り、俺たちコーチが踏み込んでいい話じゃないことは確かだ」 スクール生に寄り添い、サッカー以外の話題でも耳を傾ける竜崎さん。しかし、その竜崎さんが飛雅の問題については戸田先輩に注意を促している。 その理由はやはり、飛雅の家庭環境にあるのだと理解した俺はある疑問を感じて。 「サッカーをするのは母親との決まり事だって、飛雅は俺にそう言いました。母親の印象はいいものではありませんでしたが、飛雅と母親との仲も悪いんでしょうか?」 母親に抱いた第一印象は保護者として最悪だったが、飛雅から見た母親が悪いものであるとは限らない。そう思い、俺が戸田先輩に訊ねると、戸田先輩はなんとも渋い顔をした。 「悪いというより、飛雅は自分を守ってくれる大人がいることを知らない。親の愛情不足が、今の飛雅の人格を作り出した最大の原因だと俺は勝手に思ってる」 当人ではない俺たちが憶測の域を超えない話をしたところで、飛雅の家庭環境が良好になることはない。それを重々承知の上で俺に飛雅のことを話してくれる戸田先輩のことを、俺は素直に尊敬出来るけれど。 「それぞれの事情があって、世の中には片親だったり両親がいない子供たちもいる。飛雅だけが特例なわけじゃないが、どうもアイツには手を貸したくなってしまうんだよ」 自分じゃどうにも出来ない問題だと理解していても、足を突っ込みたくなるのは戸田先輩だけじゃない。ただ、そう思うのは今の飛雅にサッカーの神様が微笑んでいるからなのではないかと。 才能がある子供に救いの手を差し伸べたいと思うことが、果たして本当に飛雅のためになることなのかと。大人の勝手な都合に子供を巻き込んでいるのは、俺たちも同じなんじゃないかと思ってしまうことが辛かった。 スクール生だから、才能があるから。 それに託けて飛雅のことを考えてしまう俺の思いは、ただのエゴに過ぎないような気がして。親としての責任がない分、俺たちは俺たちの都合が良いように子供を操ろうとしている気がしてならない。 だからこそ、ドツボにはまる前に深入りはするなと……戸田先輩にそう促した竜崎さんの判断は、コーチとして正しいのだろうと思った。 けれど。 「……飛雅はな、自分の本当の父親の顔を知らねぇんだ。別居中の父親は実の親じゃない、そのことを飛雅自身が既に知ってしまっている。あの親子の問題は、俺たちの想像以上に闇が深い」 竜崎さんの忠告に従っているように思えた戸田先輩は、規定の書類上では知り得ることの出来ない、先輩しか持っていない情報を次々と俺に告げてきたのだ。

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