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第41話

気づいたこと 4 「飛雅は、アイツは自分がどんな状況に置かれているのか理解してる。まだ小1だってのに、別居のことも父親のことも飛雅自ら俺に話してくれた」 飛雅自身が話したことなら、信ぴょう性が高いとは思えないが。戸田先輩の口振りとその姿、そして母親に感じた違和感を考えると、戸田先輩は飛雅の言葉を信用しているのだと思った。 少ない時間を掻き集めて、飛雅としっかりコミュニケーションをとっていたらしい戸田先輩。厄介事は避けて通るタイプの先輩だと俺は勝手に決めつけていたけれど、子供に対しては熱心な人なのだと俺の考えは改まっていくばかりで。 「本当は、寂しいだけなんじゃないかと思うんだよ。聞く耳を持って接してやれば、飛雅は結構お喋りなヤツなんだ……けど、俺には子供の気持ちがよく分からない。おかしいよな、俺たちだって子供だったはずなのに」 大人になったら、薄れていく子供の頃の気持ち。 楽しかったことも、嫌だったことも全てが、今の俺たちにとっては思い出という名の記憶にしか残らない。 些細なことに疑問を抱き、なんで、どうして、と繰り返した日々。それが過ぎれば、俺たちは次第に正しい答えのない社会の中へと飛び出していくことになる。 その社会が、どれだけ小さなコミュニティだったとしても。人それぞれ意見が違い、その中でYESとNOとそれ以外があることを知って。 自分の考えが否定されることも肯定されることも必然的に学び、そうして気がついた時には諦めという1つの終着点を見つけ出す。 知らない方が幸せなことがあるとか、叶わない夢もあるとか……純粋だったはずの子供時代の気持ちは、自分でも気付かぬうちに失われてしまう。 成長は、身体だけではない。 思考も感情も、時の流れに左右され変化していく。 早く大人になりたいと思っている子供、子供に戻りたいと思っている大人。誰しも子供時代を経て大人になったはずなのに、大人と子供が分かり合うことはどうしてこんなにも困難なのだろうか。 そんなことを考え、煙草の煙りを吐き出した俺は、竜崎さんのある言葉を思い出して。 「……人を育てるのも又、人であることを忘れるな。俺、竜崎コーチからそう言われたことがあんのを思い出しました」 海外研修に参加した時、俺と揉めた柊 侑世(ひいらぎ ゆうせい)の指導をどう行っていくか悩んでいた竜崎さんが俺に告げた言葉。 「あの人らしいな、良い上司の下で働けることをありがたく思うよ。仕事以外でも真面目な点は頂けないけど、尊敬はする」 「戸田先輩、俺たちに出来ることは少ないかもしれません……でもだからって、飛雅のことは諦めろと竜崎コーチが指示したわけでもない」 「……白石、お前が思うようにやってみろ。もしもそれで問題が起きたら、その時は俺が責任を負う」 重い空気感に、重い内容の話が続く。 しかし、戸田先輩が呟いた一言に俺は疑問を抱いて。軽く眉間に皺を寄せた俺を見て、戸田先輩はこう言った。 「今日のミーティングで話が出ると思うが、飛雅のコーチは来月から白石に変更されることが決まった」

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