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第46話

気づいたこと 9 竜崎さんと話し込み、俺が職場を出て時計で時刻を確認した頃には日付けが変わっていた。 ……どうすりゃ、いいんだ。 この言葉で埋め尽くされた頭は、いつもよりもずっと重く感じる。体はそれ程疲労を感じていないのに、精神的な問題なのか俺の心は枯れ果てているようで。 事務所から駐車場までかったるく歩きつつも、気持ちは常に急いでいることに気がついた俺の目に入ったのは、真っ暗闇の中に浮かぶ白いゴールだった。 手を使わずに足だけでボールを蹴り、ゴールするのが従来のサッカーだが……サッカーの起源として有力視されているイングランド説では、戦争後の勝利を祝うために将軍の生首を蹴っていたという話がある。 それが時代を歴て生首がボールへと形が変わり、民衆が楽しめる祭りとして広まったのがスポーツのフットボール、すなわちサッカーのルーツだ。 Association Football(アソシエーション・フットボール) 、それを省略した名称がサッカーであって、現在のフットボールとサッカーに違いはないのだが。 英国から始まったと言われているフットボールが各世界に広まった歴史がそれぞれ異なるため、同じスポーツでも名称の違いが残ったままになっている。 ルーツを辿れば、ゴールもボールもルールもないけれど。しっかりと確立されたスポーツになっている今、この時代に産まれて良かったと……そんなことを思いながら、俺は意味もなく立ち止まりそのまま空を見上げた。 頭上に光る月は流れの早い雲に覆われ、確かな姿を見ることは出来ず、今の俺を照らすものは何もない。こんな夜でもどんよりとした雲の動きは確認出来るのに、輝く星も月の明るさも感じられない空はまるで、俺の心を映し出しているかのように思えてならなかった。 ……とりあえず、帰ろう。 上を向いて歩いたところで、流す涙は俺にない。 正直、泣いていいのなら泣きたいところではあるんだが。あいにく、泣ける程の感情を今の俺は持ち合わせていないらしいから。 止まった足を再び動かし、車に乗り込んだ俺は煙草を咥えながらエンジンをかけていく。 そして。 「……ったく、いい子で待ってんじゃなかったのか?」 何事も無く帰宅して早々、リビングは煌々と照らされたまま、愛する仔猫はソファーで丸っていて。そう呟いた俺は、返事のない仔猫の寝顔を見つめ微笑んでいた。 「ただいま、星」 待てど暮らせど帰ってこない俺のことを、それでも待ち続けていたらしい星くん。その姿はいい子ではないけれど、俺を癒してくれる唯一の存在に愛おしさが零れ落ちていく。 ……ベッドで寝るよう伝えたのに、いい子で待ってるっつってたのに。 言いつけを守ろうとしない仔猫さんの額にキスをしてやり、俺は星をお姫様抱っこでベッドに運んでやることにして。熟睡している様子の星は起きる気配がなく、優しくブランケットを掛けてやったら気持ち良さそうに寝息を立てていた。

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