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第47話

気づいたこと 10 機械的な電子レンジの音と、スープが煮立った音が無駄に響く室内。星を寝室に残してリビングで食事の支度をしながら、遅過ぎる夕飯をテーブルに並べていくけれど。 「……鍋のままでいいか、食器洗うのめんどくせぇーし」 具沢山なミネストローネが入った鍋を眺め、どうせ1人なのだからと……俺の口からは、ことごくズボラな独り言が洩れていた。 今日の献立は、チキンソテーとブロッコリーのサラダとミネストローネ、あとは白米。チキンソテーとサラダは皿に盛ってあるから仕方ないとしても、茶碗に米をよそうのすら面倒に感じた俺はあることを思いつく。 炊飯ジャーに残っている米を鍋の中にぶち込み、ミネストローネをなんちゃってリゾットにして。鍋を加熱していた火を止めた後、木製の鍋敷きの上にそれを乗せれば俺用の夕飯が完成する。 我ながら、いい案を思いついた。 そんなことを考えながら、俺は夕飯の支度をしてくれた星に感謝し両手を合わせて。 「……うめぇー」 1人寂しい食卓でも、愛情がたっぷり詰まった星くんの料理は美味かった。それが余計に俺の心を切なくさせ、申し訳ない気持ちで一杯になる。 腹は満たされていくのに、それと反比例して減っていく心の余裕。いつだったか、食事の時間を彩るのは料理ではなく食事を共にする相手が肝心なのだと……そう言っていた星の言葉が、今更になって響いてきた。 本当は、一緒に食ってやりたかった。 たわいもない話をしながら、料理をたいらげる俺を見て、嬉しそうに笑う星の顔が見たかった。 洗い物をしている時、よく感じる甘い視線も。 ふにゃりと緩んだ顔をステラで隠して、照れくされそうにしている姿も。カレーのように飽きることなんて絶対にないから、毎日の些細な仕草や表情が愛おしくて。 何気ない毎日に幸せを感じ、その度に気づかされるのは俺にとってのお前が大切な存在であるということなのに。 恋人を大切に思っているだけでは駄目で、そこには言動が伴わないと意味がない。更に言えば、想いが相手に届いて初めて自分の気持ちが相手に伝わる。 それなのに、今はどれだけ星のことを想っても届かない。会うことすら不可能だった過去の半年間、それに比べれば現状は良いものなんだろうけれど。 一緒に暮らしていたとしても、過去と似たような想いをする羽目になるなんて……俺の考えは甘かったのかもしれないと、そんなことを考えながら俺は食事を済ませて数少ない食器を洗う。 寝て起きたら、明日も仕事だ。 その前に、俺は眠りにつけるのか定かじゃない。 癒しの抱き枕ならぬ、癒しの星くんがベッドにいるのに。その隣に転がり目を閉じたとしても、余計な考え事が邪魔をして睡眠をとることが困難になる気がしてならなくて。 洗い物を片付け、次にすることを考えた時。 この状況で役に立つのはアルコールだと思った俺は、星と暮らし始めてから滅多に飲まなくなった酒を冷凍庫から取り出していた。

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