49 / 95

第49話

気になる話 1 (星side) 夜が終われば朝が来て、朝が終わればそのうち夜が来る。その間にはお昼があって、お昼はお店のランチ時間なんだけれど。 「……だから、生活出来る分の額はきちんと振り込んでいるだろう。お前が何をしたいのか、俺にはもう分からない」 「私は、あの人にもう一度会いたいだけよ。アナタには感謝してる……でも、もう頼らないわ」 明るい店内に流れる柔らかな音楽、ゆったりとした安らぎの空間で食事を楽しむお客様が多い中、テーブル席にいる1組の男女が言い合いをしている真っ最中で。 「3番テーブルのお客様、料理を提供するタイミングがないわね……もう少し様子を見て、ダメそうなら私が行くわ」 「申し訳ありません、お願いします」 仕事帰りで朝までそのままソファーで寝ていた雪夜さんのことで、オレの頭の中はいっぱいなのに。それでもちゃんと時間通りに出勤して、オレは1番忙しいランチ時間を過ごしている。 そんな中、現れた1組の男女の会話にオレもランさんも聞き耳を立てつつ、注文を受けた料理をどのタイミングで提供するか見計らっていたけれど。 結局オレはタイミングが掴めないまま、お客様のどんよりとした険悪なムードにじわじわと感染していく。 スーツ姿で落ち着いた雰囲気の男性と、お化粧ばっちりで女性らしさ全開の女の人。見た目的に、2人とも30歳前後くらいなのかなって思うけれど。それにしても、見た目だけでは2人の関係性が分からない。 友達同士、恋人同士、ママ友さん、会社の同僚さん、とか。パッと見た感じやお互いの距離感、話の内容や声のトーン等で、複数人で来店されるお客様の関係性はなんとなく分かるようになってきたのに。 予測した関係性や会話の切れ目を狙って、お客様の邪魔にならないような接客を心掛けているのに。今は何も出来ない自分が不甲斐なく感じて、オレからは小さな溜め息が漏れてしまう。 でも、そんなオレとは違うランさんは冷静に対応し、2人の会話が途切れた隙を見てテーブルに料理をそっと置いていた。 お客様相手なのだから、提供する側の本音は言えないけれど。おそらく、ランさんとオレが提供したい癒しや安らぎ、そして楽しい時間っていうのは、3番テーブルにいる2人には届かない。 女性の言動に飽きれているように思える男性は、整った顔の眉間に皺を寄せていて。きっと、この人が笑ったらイケメンさんなんだろうなって……そんなことを考えてしまったオレは、なんだかすごく雪夜さんに会いたくて堪らなくなってしまったんだ。 どのような関係なのかも、揉めている内容もよく分からない2人のお客様。美男美女が揃って食事をしているからと言って、カップルや夫婦だと決めつけるのは違うと思う……でも、無関係なオレの心が寂しくなってしまうくらいに、お客様2人を包む空気は重かった。 そして。 「……茉央がどうしようが、それはお前の勝手だ。ただ、アイツの夢をあの子に背負わせ過ぎるなよ。子は宝だと思うけれど、飛雄はお前を輝かせるための宝石じゃないんだ」 男性が放ったこの言葉から、数秒後。 店内には他のお客様の悲鳴、水に濡れた男性が吐いた溜め息と、グラスが割れる音が響いていた。

ともだちにシェアしよう!