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気になる話 9

「無駄にってどういう意味だよ、星くん?」 少しずつ、でも確実に。 オレと雪夜さんの距離が縮まり、そしてオレは目がちっとも笑っていない雪夜さんに捕まった。 スマホを渡すためにオレに近づいたはずの雪夜さんは、背後からオレの腰に腕を回してきて。逃げられない状態になってしまったオレの耳に唇を寄せ、雪夜さんはもう一度オレの名を呼ぶ。 「……星、教えて」 「っ…ちょ、ダメです」 耳にかかる僅かな吐息、少しだけトーンが落ちた雪夜さんの声は心臓に悪い。ただ、それだけのことで反応してしまうオレもどうかしているんだけれど。 きっと、雪夜さんの仕草が無駄なんじゃなくて。オレが勝手に、雪夜さんの言動にドキドキしちゃうのが悪いんだと思うから。 平常心、平常心と。 何度も繰り返し心の中で同じ単語を叫びつつ、オレは自分の発言を撤回しようと試みる。 「あの、雪夜さんが無駄って意味じゃなくて……その、全部オレが悪いので雪夜さんは気にしないでください」 そう、雪夜さんは悪くない。 だからさっきのオレの呟きは忘れて、ついでにオレのことも離してほしいなぁ……なんて。 頭の中に思い浮かんだ言葉を発することなく、オレが雪夜さんの出方を伺っていると。 「無駄じゃねぇーならさ、思う存分俺のこと堪能してくれよ。他人に無駄だと思われる部分も全部、お前が独占していいから」 なんとも甘い声で囁かれた言葉は、オレの心と身体に響いていく。 ……でも。 「雪夜さんっ、煙草!!」 雪夜さんが手に持っていた煙草の火が、オレと雪夜さんの時を止めることはなくて。ゆっくり燃えて出来上がった灰が、キッチンのシンクの中にポトリと落ちてしまったんだ。 「あ、忘れてた。せっかくいい雰囲気に持ち込めたと思ったんだけどなぁ……俺は無駄とか言われてもいちいち気にしねぇーから、お前も気にすんなよ?」 一瞬で淡いピンク色に心を染められたかと思えば、また通常のクリアな世界に逆戻りする感覚。雪夜さんに振り回されるのは嫌いじゃないし、火事にならなくて良かったと心の底から思うけれど。 「もう、オレで遊ばないでくださいよ……それより、ご飯にするので着替えてきてください。煙草の取り扱いが危なっかしい時の雪夜さんは疲れてるんだって、オレ知ってるんですからね」 雪夜さんがどれだけ甘い雰囲気を作り上げても、オレがその甘さに流されそうになっても。オレは雪夜さんのちょっとした異変に気がついて、そして心配してしまう。 見過ごすことだってできるのかもしれないし、指摘しない方がいいことだってあるのかもしれない。でも、オレはそんなに優しい人間じゃないから。 「付き合い長いと分かっちまうもんだな。着替えたら煙草の処理すっから、今は大人しく星くんの言うこと聞いとくわ」 オレはまるで大型犬を飼い慣らすように、オレから離れていく雪夜さんにいい子ですって小さく微笑んだんだ。

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