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気になる話 13
雪夜side
珍しく日付が変わっても寝付くことがなかった星くんの頭の中は、弘樹のことで埋め尽くされていた。
興奮状態の脳内を整理しようと必死な星を宥めた後、俺は気持ち良さそうに寝息を立てる星の寝顔を見つめる。
サークルの飲み会に参加し、女に拉致られた哀れなバカ犬。これは俺の勘に過ぎないが、弘樹はおそらく酒に弱いのだろう。
酒の飲み方を知らない弘樹が、先輩に勧められるがまま飲酒をしていたとしたら……そりゃあ記憶がなくても無理のない話だし、気づいたらホテルのベッドの上だったなんてことも有り得る話だ。
正直、俺は酒を飲んで意識を飛ばすヤツの気が知れないけれど。あのバカ犬は美味い酒の飲み方も知らず、場の空気感とテンションに任せてハイペースで飲酒したという想像は容易につく。
詳しいことは何も分からないままだが、今回の状況を察するに若気の至りで済まされる行為な気もするけれど……俺の考えを述べたところで、箱入りの星くんは納得しないのだろうと思った。
親友として、星は弘樹を庇おうとしている。
しかし、被害者である西野に同情してしまう気持ちも同時に合わせ持つ星くん。
自分は関係ないのだからと、友達のことだからと。そう割り切ることがなく、星はまるで自分の問題のように弘樹の浮気騒動を受け止めているから。
明日の朝、弘樹に連絡してみると言っていたけれど。本音を言えば、星がそこまで首を突っ込まなくてもいいのではないかと思ってしまう俺がいる。
……と言うよりも、弘樹のことなんざどうでもいいから俺の話を聞いてほしかった。
なんて。
星には伝えられない思いを隠したまま、俺は今日も平然を繕い星の隣で瞳を閉じる。
お互いに時間が取れたら、星にだけは話しておきたい仕事のこと。なにもそれは今日じゃなくてもよかったのだが、心の中には薄気味悪い影が落ちて。
愛しているし、大切にしたい。
だから俺の都合よりも、俺は星を優先する……しかし、それが本当に俺たちのためになっているのかと問われたら、俺は返答に困るのだろう。
星に対して無理をしているつもりはないし、コイツが俺の隣で笑ってくれるのならそれで充分だと思う。だが、俺のその思いが少しずつ俺たちに距離を生んでいる気がしてならないんだ。
肝心なことが伝えられないまま、1日が過ぎていくような感覚。それが日に日に積み重なり、いつか思いまでもがすれ違ってしまうんじゃないかと。
学生の頃とは違う時の流れ、1日で過ぎていく24時間というタイムリミットはあまりにも早過ぎて。忙しい日々の中でも落ち着いていたはずの生活が、他人に壊されているような気持ちになってしまう。
2人だけの世界なんてものは存在しないし、生きていくためには嫌でも社会に出る必要がある。幸い、俺も星も好きなことを仕事にしているが、どんな職であれ稼がなければ生活はできないわけで。
俺は時間の使い方を改めた方がいいのではないかと、弘樹の浮気騒動を聞いて俺が感じたことは、星とは少し異なる課題だった。
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