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気になる話 23
子供がいるということは、必ずその子供には親が存在する。例え、両親が揃っていなくても、世の中にいる人間の全てが神じゃない限り、誰かと誰かの間にできた生命が子になるわけで。
「……なんか、面倒くせぇー」
仕事終わりの車内で帰宅するために運転中の俺は独り、そんなことを呟いていた。
まだ幼い子供の責任を負うのは親であり、子供の意思を汲み取り育てていくのも親ではあるけれど。子供達に指導する時、保護者の目を気にしてサッカーをしていたら……それは、コーチとしてどうなんだろうかと思ってしまう俺がいる。
保護者の意見は参考にしなければならないと思うし、注意すべきことも多いとは思う。だが、そればかりを気にしていたらコーチなんてやってられない。
うちの子には話し掛けてくれないとか、もっと子供のことを褒めて欲しいとか、他の子だけ贔屓しているんじゃないかとか。
正直、サッカーの知識もないのに口出しをしてくる保護者が多いのが現実で。全ての意見を聞き入れて、指導内容を改めることは不可能に近い。
しかも、大概そんなことを言ってくるのは女親だ。自分の子供が1番可愛いと思っていることは大いに結構だが、度が過ぎると周りが困る。
子供のことを思って……と、保護者は思っているのだろうが、過干渉気味の保護者はコーチ陣の間では厄介者だ。
竜崎コーチも、戸田先輩も、そして俺もまだ独身で。保護者からのクレームで最終的に言い放たれる言葉は、ほぼ決まっていると言ってもいいだろう。
……親じゃないくせに。
結婚もしていない、親になったこともない人間に親の気持ちなんて分かるわけがない。
その通りだとは思うが、それなら逆にコーチになったことのない母親達はサッカーのことについて口出しをしないでほしいと……俺がまだバイト時代に、竜崎さんが小さな声で愚痴っていたことを聞いたことがある。
幸い、うちのスクールでは俺が知る竜崎さんの愚痴以外で酷いクレームが出たことはないらしいけれど。戸田先輩からの忠告は、どう考えてもこれからの俺の保護者対応の仕方についてのものだったように思うから。
親のことを気にして指導するなんて俺には無理だと思いつつ、俺は自宅の駐車場に車を駐めた。
……親になれるなら、なりたい。
子供が欲しくないのではなく、俺と星には授かる術がないだけだ。
星との子供なら、星と同等に可愛がってやるのに。親の気持ちに立てるのなら、いくらでも立ってやんのに。
それができない理由がある俺は、愛おしい相手を一生かけて愛し抜くと決めた。どんな困難があっても、星と2人で生きていくと決めたけれど。
社会に出た俺を待っていたかのように、現実はどうすることもできない問題を突き付けてきて。
今が楽しいだけじゃ駄目なんだと、これから先の未来を見据えて結婚だの子供だの簡単に言われてしまう立場にいる俺は、星に言えない悩みを日に日に増やしていくことしかできなかった。
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