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倦怠期って 1

星side 「うんめぇッ!!」 「うるせぇーバカ犬。星くんが俺のために作ってくれたんだ、美味いに決まってんだろ」 「えへへ、美味しいなら良かったです」 色々なことがあって、今日は弘樹も加えた3人で食卓を囲んでいるオレ達。朝の電話で、雪夜さんがオレと弘樹の間に入ってくれたけれど……弘樹のことが心配だったオレは、もう直接弘樹に家まで来てもらうことにしたんだ。 オレの仕事が終わった後、大学終わりの弘樹と連絡を取って、その後に雪夜さんにLINEして。オレの独断で決めてしまったことだから、ひょっとしたら雪夜さんが弘樹を追い返してしまうかもしれないって思ったけれど。 「……2人は、変わらないッスよね。環境が変わって各々仕事もしてんのに、2人ともお互いを大切にしてるっていうか」 「実際、大切にしてるしな」 ご飯を食べて急にテンションが上がったかと思えば、オレと雪夜さんを見て落ち込む弘樹に、雪夜さんは苦笑いしつつも弘樹の相手をしてくれている。 テーブルに並んだ料理を美味しそうに食べてくれる2人、少しだけ疲れた顔をしている雪夜さんのさり気ない笑顔がとっても優しくて。 オレの勝手な行動に、仕事帰りの雪夜さんを巻き込んでいるのに。雪夜さんは怒ることなく、オレを大切だって言ってくれたんだ。 雪夜さんにとっては、何気ない会話に過ぎないのかもしれないけれど。それでも、こういった何気ない瞬間に小さな愛を感じることは沢山あって。 「大切ってさ、言葉にすんのは簡単だけど態度で示すのは難しくて……俺、悠希のこと大切にしてるつもりだったのに」 「相手に伝わらなきゃ、個人の想いは意味のないものになっちゃうよ。オレは、雪夜さんから大切にされてる自覚があるもん」 愛しの西野君と絶賛喧嘩中の弘樹を前にして、オレは堂々と惚気けてしまった。 「まぁ、弘樹の気持ちも分かるけど。星くんの言ってることも一理ある……お前がいくら西野のことを大切だって思ってたって、今は届かねぇーワケだし」 惚気けたことを後から気づいて頬を染めるオレに優しく笑い掛けた雪夜さんは、弘樹に向かいそう言って。大切だと伝えても相手がどう受け取るかは分からないし、そもそも今の弘樹は西野君から拒絶されているから。 まだしっかり身の潔白が証明できない弘樹が不安定な気持ちを伝えるくらいなら、今は落ち着いて気持ちの整理をした方がいいと思うけれど。 落ち着き方を知らない弘樹は、食事が終わっても独りでずっとソワソワしていて。会話が途切れ、オレと雪夜さんがキッチンに並んで洗い物を片付けていた時。 「……倦怠期、なんッスかね?」 ボソッと呟くように疑問を投げかけてきた弘樹は、オレと雪夜さんの顔を見比べると俯いて膝を抱えてしまったんだ。

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