74 / 124
倦怠期って 2
倦怠期、それは飽きて嫌になる時期のことをいうらしい……特に、夫婦の間柄で。
「倦怠期っつーより、お前らの場合は破局寸前だろ。このままだと喧嘩別れすんぞ、バカ犬」
洗い物を片付けて、それからのんびりするためにコーヒーを淹れ始めた雪夜さんは弘樹にそう言った。
平穏な日々を望むオレと雪夜さんの家、その中で弘樹だけが浮かない表情をしていて。
「……弘樹、西野君は弘樹に飽きたわけじゃないよ。もちろん、嫌いになったわけでもない。ただね、西野君は弘樹の方が飽き始めてるんじゃないかって思ってるの」
大きな身体を小さく丸め、ウジウジしている弘樹にオレは西野君の気持ちを伝えてみる。そんなオレの肩を抱き、雪夜さんも弘樹の言葉を待っているみたいだった。
でも、弘樹からの答えはなかなか返ってこなくって。急に静かになった室内で、雪夜さんが吐いた溜め息が一際大きく聴こえてきたんだ。
オレも雪夜さんも、お互いに仕事がある。
それでもこうして弘樹のために、オレたち2人は時間を割いているのに。オレの選択は、余計なお節介だったのかなって……オレまでしょんぼりしかけた時、隣にいる雪夜さんがゆっくりと口を開いた。
「お前の写真を撮った女は、1年狩りの愛ちんって呼ばれてるサークルじゃ有名なヤツらしい。弘樹、お前はおそらく被害者だ」
「……俺が、被害者?」
雪夜さんの話を聞いて、やっと声を出した弘樹は眉間にしわを寄せる。
「そう。何も知らない1年に酒を飲ませて、持ち帰りすんのがその女の手口だ。写真を残すのは、捕まえた1年を利用できるようにらしい」
「なんだよ、ソレ……」
不可思議な事件が起きてからずっと、弘樹は自分のしたことを後悔していた。先輩にお酒を勧められても、断れば良かったんだとか、そもそも飲み会に参加しなければよかったとか。
弘樹が家に来てから、雪夜さんが帰ってくるまで。オレは、そんな弘樹の後悔してる気持ちを聞き続けていたから。
「真実が分かったら、西野君の気持ちも変わるかもしれない。弘樹、弘樹がしっかりしなくてどうするの?」
落ち込んでいる暇はない。
オレたちが真実を追求している間にも、西野君の気持ちは弘樹から離れてしまっているかもしれない。
西野君のことを大切に想うなら、自分のことより相手のことを考えて行動しなきゃ……そうしなきゃ、きっと弘樹はもっと後悔しちゃう。
そう思ったオレは、キッチンから離れて弘樹の側に座り込んだ。
「セイちゃん、俺どうしたらいい?」
捨てられた仔犬みたいに、潤んだ瞳でオレを見つめてくる弘樹。図体は大きいのに、弱々しく助けを求めてくるところはどことなく雪夜さんに似ていて。
笑う場面じゃないと分かっていても、オレからは堪えきれない笑いが洩れていく。
「星、何笑ってんだよ……こんなバカ犬と俺を一緒にすんな、その顔は俺だけのもんだろ」
ともだちにシェアしよう!

