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倦怠期って 3
オレがどうして笑っているのか、その理由をすぐに察したらしい雪夜さんは片手でオレの頭をガシッと掴まえる。
でも、雪夜さんがこの後にオレの頭をくしゃくしゃって、撫でてくれることを知っているオレは、雪夜さんから荒っぽい扱いをされても気にしないけれど。
「白石さんでも、セイをそうやって扱うことあるんッスね。なんか意外っつーか、セイには常に甘いイメージがあったから変な感じ」
オレと雪夜さんを見ていた弘樹は、自分の悩みを棚に上げてヘラっとした薄い笑顔を見せた。
「365日24時いつでもどこでも甘かったら、さすがに俺の頭おかしいだろ。どんだけ星が可愛くても、注意することだってあんだよ」
オレの予測通り、雪夜さんは弘樹にそう言いながらオレの頭を撫でてくれる。確かに、雪夜さんに注意されることもなくはないけれど、基本的に雪夜さんはオレにとっても甘いと思う。
そんなことを思いつつも、オレは雪夜さんに撫でてもらえることを嬉しく感じて緩んだ表情がなかなか戻らないんだ。
「なんか、やっぱり憧れるッス。俺、白石さんみたいに余裕がある男になりたいのに……自分のことしか考えらんねぇし、これじゃ全然ダメッスね」
幸せいっぱいで独り笑っているオレをおいてけぼりにして、弘樹は雪夜さんに向かい凹んだ気持ちを呟いていくけれど。
弘樹から見た雪夜さんは、余裕があるように思えたんだって……オレは、弘樹の発言に驚いてしまったんだ。
だって、雪夜さんは余裕があるわけじゃないから。オレが雪夜さんだけに見せる笑顔で、弘樹の前で笑っていたのが雪夜さんは気に食わなかっただけで。
テーブルにまで嫉妬する雪夜さんに、心の余裕があるわけないのに。雪夜さんが嫉妬心の塊で、本当はとっても可愛い人だってことをオレは知ってる。
でも、そのことを知っているのはオレだけなんだって思える弘樹の発言はありがたいものだったから。オレは弘樹の意見を否定することなく、雪夜さんと弘樹の話を聞くことにしたんだ。
「余裕とか、そういうもんじゃねぇーと思うけど……星、とりあえずお前はこっち座って、弘樹はキッチンにあるマグカップ持ってラグの上に座れ」
「え、あ……分かったッス」
ソファーの上にいる弘樹と、ラグの上にいるオレ。その場所を入れ替えるよう指示されたオレはソファーにちょこんと座り、弘樹は弘樹でキッチンでマグカップを手に取った後にラグの上で胡座になって。
オレと弘樹がちゃんと座り込んだことを確認してから、雪夜さんは片手に持っていたマグカップをテーブルの上に置く。そして、雪夜さんはオレの隣に座って長い脚を組んだ。
「ん、これでゆっくり話できるな。星くんのはいつものカフェオレで、弘樹のは甘さ控えめのカフェオレになってるから2人とも飲みやすいはず」
テーブルの上に並んだオレと雪夜さんのマグカップが2つと、弘樹が持ってきたマグカップが1つ。雪夜さんのマグカップにはブラックコーヒーが入っていて、それぞれの好みに合わせた飲み物を用意してくれるところが雪夜さんの優しさなんだと思った。
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