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倦怠期って 7
後々のこと。
それを弘樹が考えてなくても、西野君は考えているんだよって……西野君には覚悟があるから、不安にもなるんだって。
そう言った雪夜さんは、オレの頭を優しく撫でたけれど。その横顔から感じ取れたのは、申し訳なさに似た儚い表情だった。
すぐにオレから離れていってしまった雪夜さんの手、雪夜さんの伏せ目がちな視線の先には組まれた両手があって。そこに僅かな力が入っていることに気がづいたオレは、どうにもできない切なさに襲われる。
オレと雪夜さん、当人同士がいくら現状に満足していたとしても。周りから見たオレたちは、幸せとは程遠い暮らしをしているように思われてしまうんだろう。
彼女がいない独身男性として、寂しい思いをしている人……周りから見れば、そんな認識になってしまうのは仕方がないことだと思うけれど。
それに耐えられるだけの強い意志がなきゃ、男同士で手を取り合い生きていくのは困難なんだ。
雪夜さんが今の生活を手にするまでにしてきた努力は、現状を維持するための努力はきっと、オレが思っているよりずっと辛いものなのかもしれないと。
雪夜さんの隣でそんなことを思ったオレは、雪夜さんの組まれた両手に片手をそっと添えてみた。
「……性別なんて、本当は関係ないと思う。オレは、相手が雪夜さんだから一緒にいたいと思うんだもん」
黙っていようと思っていたのに、口が勝手に動いてしまう。弘樹に対してオレが感じていたこと、それを弘樹に伝えなきゃって……喋り出したオレは、雪夜さんの手を強く握っていた。
「弘樹は、弘樹はどうして西野君がいいの?前々から思ってはいたけど、弘樹の隣にいるのが西野君じゃなきゃダメな理由がオレにはよく分からない」
「セイ、ちゃん」
「西野君が弘樹を好きなのは、西野君を見てれば分かる。でも、弘樹がどうして西野君を選んだのか、どうして女の子じゃなくて西野君なのかが弘樹からは伝わってこないよ」
好きになるのに、明確な理由はいらないのかもしれない。好きだから好きなんだ、でもいいとは思うけれど……弘樹の場合は、西野君に対しての気持ちが軽い気がしてしまって。
「西野君が弘樹を好きだから、弘樹は西野君が好きなの?顔が可愛いから?弘樹のワガママに付き合ってくれるから?」
「まぁ、そういうのもあるけど……なんていうか、俺を想ってくれるところが可愛いなって」
「じゃあ、弘樹は西野君と性別だけが違った人が現れたらどうするの?」
そんなこと有り得ないって、自分でも分かってはいる。でも問いかけずにはいられなくて、オレは弘樹にそう訊ねていた。
けれど、弘樹からの返事はないままで。
意味が通じてないのかなと思ったオレは、言葉は並べていく。
「相手が女の子なら、何も考えずに手を繋いでデートできる。西野君と容姿も内面もそっくりな女の子がいたとしたら、その子が弘樹のことを好きだって言ったら、弘樹はそれでも西野君を選ぶ?」
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