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倦怠期って 8
オレの問い掛けに、返事をしないままの弘樹。
西野君を選ぶって、オレは弘樹に即答してほしかったのに。何も言わない弘樹は、オレを真っ直ぐ見つめるだけで。
瞳は何か言いたげなのに、言葉にしない弘樹に苛立ちを感じたオレは弘樹を睨んでしまった。でも、オレのその態度でオレが怒っていることが弘樹に伝わったらしく、弘樹は深い溜め息を吐いた後に声を出して。
「……先ばっか見たって、そん時どう思うかはその日の俺にしか分かんねぇと思う。俺は、今の俺は悠希が好きだけど……でも、今後その想いがどうなるかなんて誰にも分かんねぇだろ」
「ひろ、き……」
「俺は悠希と結婚前提に付き合ってるわけじゃねぇし、そもそも結婚できねぇし。この世の中、一生一緒に生きてく決意があるやつだけが付き合える法律なんてねぇじゃんか」
オレの予想とは真逆の答えが、弘樹の口から次々に出てくる。価値観の違いは人によってそれぞれだけれど、弘樹の考えがここまでオレと違うなんて思ってもみなかった。
「悠希と俺はさ、セイと白石さんみたいな付き合いはしてねぇんだよ。とりあえず好きだから会いたいと思うし、抱きたいとも思うけど。その想いが持続して初めて、先のことが後からついてくるんだと俺は思う」
「でも、それじゃあ弘樹は西野君と別れるつもりでいるの?気持ちが冷めたら、西野君はもう弘樹にとって不必要になっちゃうの?」
弘樹の言ってることは、オレにも分かる。
分かるけれど、分かりたくなくて……オレが弘樹にそう訊ねると、弘樹は声を荒らげ始めた。
「そうは言ってねぇだろ。ただ俺は、未来なんて誰にも分かんねぇって言ってんの。セイと白石さんは、たまたまこうやって一緒に暮らしてるけどさ。同性同士の付き合いで考えたら、セイたちはレアケースだと思う」
誰に向けているのか分からない怒りを表には出さないように、弘樹はオレと目を合わせることをやめて話していく。
「家族にも納得してもらって、2人で暮らせるのなんか本当に運がいいやつらだけじゃん。男女の恋愛でもそんなん同じだろ、結婚したって離婚する夫婦もいんだから。深く考えて付き合ってる人間は少数だと思うし、先をみても上手くいく保証はねぇんだよッ!」
交わらない弘樹とオレの視線、けれどそれは気持ちも同じだと思った。弘樹の言葉が、オレだけじゃなく雪夜さんも傷つけている気がして……オレは、黙ってオレと弘樹の様子を見守る雪夜さんの手を一際強く握る。
「……たまたまじゃない。偶然でも、運がいいわけでもない。弘樹はっ、オレの何を知ってるの。ここまでくるのに、どれだけの想いをしたと思ってんの」
「星くん、やめとけ」
オレが指先に込めた力が雪夜さんに伝わって、雪夜さんはオレの怒りを抑えようとしてくれたけれど。
「オレが首を突っ込まなくても、弘樹はそのうち西野君と別れると思う。オレはもう何も言わないから、最後に一言だけ言わせて……見損なったよ、弘樹」
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