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倦怠期って 16

「そういやさ、弘樹はどこ行ったんだ?」 おかしな夢に気を取られていて、すっかり忘れていた弘樹の存在。寝付く前までは家にいたはずの弘樹の気配がしないことに気づいた俺は、ベッドから抜け出した星に問う。 「弘樹ならもう帰りましたよ。今日は朝一で講義があるからって、朝ご飯をたいらげて早々に家を出ました」 「そっか、言ってくれりゃ駅まで送ってやったのに。朝メシ食っていったってことは、お前ら仲直りできたんだな」 星と弘樹の仲が元に戻っていることを、俺は既に知っているけれど。確認のために俺がそう言うと、星くんは嬉しそうにこくんと頷いた。 「寝起きで顔を合わせた時は気まずかったんですけど、弘樹の方から謝ってくれて。オレの方こそ酷いこと言ってごめんねって、お互いにペコペコしてたらそのうちおかしく思えてきちゃったんです」 昨日の夜とは打って変わって、なんとも優しい顔をして笑う星くん。そんな星の背中を追いかけ、俺もベッドから起き上がりリビングへ向かった。 テーブルの上に並ぶのは、俺の朝食。 弘樹が寝ていたはずのソファーは、いつも通りの状態に戻されている。普段よりも星の就寝時間は遅かったが、星くんの生活スタイルは乱れることがないのだと思った。 星の真面目な性格がよく分かる朝の風景と、柔らかい光が射し込む温かい空気。考えることは沢山あるけれど、それでもやはりこうして迎える朝は尊いもので。 「いただきます、星くん」 用意されている朝食の前に座り、俺はしっかりと両手を合わせた。そんな俺に微笑んでくれた星は、俺の隣に腰掛けるとスマホを取り出し何やら検索していて。 「雪夜さん、あの……オレ、雪夜さんに甘え過ぎているんでしょうか」 急に暗い顔をして呟いた星に、俺はゆっくり首を振って否定したけれど。 「本当、ですか?」 しょんぼりと、でも上目遣いで俺を見る星は、俺の意見を信じてはくれなかった。さっきまで笑っていたのに、今の星は随分と凹んでいるらしい。だが、その理由が俺には理解できず、俺は星に訊ねていく。 「急に暗い顔して、どーした?」 すると、美味い手料理を頬ばっている俺の視界に入るように、星は自身のスマホを差し出してきて。 「雪夜さんが見た夢のこと、気になって調べてみたんです。そしたら、これ……」 「……ラジオ体操の夢は生活習慣の悪さが原因、どこかに閉じ込められる夢はあなたが強いストレスにさらされている状態を意味する……って、マジか」 星が占いを信じることは知っていたが、この世の中には夢占いというものが存在するらしい。その情報によれば俺が見た夢は、今の俺がとても困難な状況や状態にあり、自分では思っても見ない程のストレスがかかっているということを暗示しているそうだ。 信じたくはないが、確かにココ最近の俺は疲れを感じていると思う。それをこんな形で星に見破れることになるとは、なんとも迂闊だ。 笑い話だったはずの夢。 けれどそれは、俺の脳内からの小さな危険信号を意味しているのかもしれない。

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