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夢と真実 2

「頑張り屋、ですか。確かに、雪夜さんは見かけによらずかなりしっかりしてると思いますけど……オレは、オレはそこまで頑張れてないと思いますよ?」 自分の頑張りが、自分自身で認められないからこそ。オレは、雪夜さんに甘え過ぎているんじゃないかって思考になっているのに。 「そんなことはないわ。2人とも、仕事も家庭も大事にしたいって感じですもの。その為の努力は惜しまない……でも、本当にそれでいいのかしら?」 オレも雪夜さん同様に頑張っていると、ランさんはそう言うけれど。その後に付け加えられた問いに返す言葉を、オレは一生懸命探していく。 探して、探して……結局、オレの中で答えは出てこなくて。困り果てたオレを見たランさんは、そっと言葉を紡いでくれた。 「仕事は別として、家庭でも頑張る必要はないと思うのよ。お互いの価値観で、最低限満足出来ればそれで充分。仕事でも家でも頑張っていたら、2人は一体どこで気を休めるんでしょうね?」 家は、体も心も休まる場所。 頑張り過ぎる必要はないって、ランさんに言われたオレは雪夜さんのことを思う。 体は休めていたとしても、雪夜さんの心はどうなんだろうって。 「星ちゃんと雪夜は、家庭でも優秀過ぎるんじゃないかしら?家でもよりよい環境を保とうと、お互いに気を遣い過ぎているのかもしれないわ」 「だから、雪夜さんも気付かぬうちにストレスが溜まっちゃうんでしょうか……オレ、どうしたらいいんだろう」 雪夜さんが安らげるように、オレはちゃんと家事をしなきゃとか。雪夜さんの帰りが遅くても、なるべく起きていたいとか。 そんなオレの考えは、逆効果なのかもしれない。オレが今の環境を保とうと努力すればするほど、雪夜さんもオレと同じように努力を必要とするのかも……そう思うと、オレはもう何をしたらいいのか分からなくなってしまう。 「頑張る為の休息も、時には必要なの。雪夜はね、星ちゃんとの生活を、貴方の存在を、1番大切にしているはずよ。いつまでも守りたくて、大事にしたいんでしょうね」 考え出したら、負のスパイラルに落ちてしまう。そうして、なかなか食が進まなくなったオレはカウンターに身を預けた。 大切に、大事にされていることはオレだって分かってる。雪夜さんの想いを感じるからこそ、オレは雪夜さんのために頑張りたいのに。 生活を伴にしていくのなら、ただひたすらに頑張っているだけではそのうち限界が来るのかもしれない。 その前に、今の生活を見直した方がいいのではないかと……雪夜さんが見た夢は、オレにも雪夜さんにも忠告をしている気がしてならなかった。 「……オレが、雪夜さんのストレスの原因」 言葉にしたら急に悲しくなって、胸が苦しくなって。カウンターに片方の頬を付けたまま、オレは唇を噛んで涙を堪えることしかできなかった。

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