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夢と真実 3
黙り込んでしまったオレに、ランさんはとても穏やかな声で話をしてくれる。
「私から見れば、星ちゃんの存在が雪夜にストレスを与える原因とは思えないわよ。ただ、お互いに頑張らなくてもいい日があってもいいんじゃないかと思うの」
「……頑張らなくても、いい日?」
「そう。例えば、普段している家事をせずに1日2人で話し合う日を設けてみるとかね。どんな内容の話でも構わないから、2人で会話を楽しむことも大切だと思うわ」
当たり前過ぎて、考えもしなかった答え。
それを教えてくれたランさんは、サンドウィッチを頬ばった後に言葉を続けてくれる。
「夫婦の会話時間って意外と短いのよ、1日平均で30分くらいの夫婦も少なくないらしいの。一緒に生活していると、わざわざ言葉にしなくても通じることはあるのかもしれないけれど……それでも、ね?」
確かに、オレは雪夜さんと話しているようで、案外そうでもないことに気がついた。一緒に眠れる時間があって、2人で食事をする時間があって。
オレはそれだけで安心していたし、心のどこかで寂しさも抱えていた。でもそれは、オレのワガママな思いなんじゃないかって……ランさんの話を聞くまでは、ずっとそう思っていたけれど。
「触れ合えるからって、安心しているだけじゃダメなのかもしれませんね。見えない不安は積み重なっていくばかりだし、生活も大事だけど、時にはお互いを良く知る日があってもいい……の、かな」
人の考えは、常に同じとは限らない。
自分でも自分のことが分からないこともあるし、仕事をしながら家庭を大切にするってことが、どれほど大変なことなのかオレは実感している最中なんだと思う。
雪夜さんの負担になりたくなくて、オレは自分でも気付かぬうちに頑張っていたらしいけれど。でも、オレのそんな行動が雪夜さんを追い詰めているんだとしたら。
オレは弘樹の話を聞くより先に、本当は雪夜さんとの何気ない会話を優先すべきだったんだ。
遅すぎた後悔が後から後からやってきて、どんどん沈んでいく心。でも、このまま落ち込んでいるだけじゃ、状況は改善されないことも頭の中では理解していて。
「男性って、不思議な生き物なの。私も星ちゃんもそうだけれど、心の内を打ち明けるのはなかなか勇気がいるのよね。それが悩みなら尚更、内に秘める思いが強くなる……雪夜はそのタイプだから、星ちゃんの優しさで包み込んであげてくれるかしら?」
ランさんの助言を頼りに、オレは少しずつ行動に移してみようと思った。
「やってみます。雪夜さん、あんまりオレに甘えてくれないけど……でも、オレは雪夜さんが甘えてきてくれるのも嬉しいから。オレが雪夜さんのストレスにならないように、色々手を尽くしてみます」
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