92 / 124

夢と真実 4

そうは言ったものの、何をどうすればいいのかイマイチよく分からない……分からないけれど、仕事はしなくちゃいけないし、西野君にも会わなきゃならないしで。 オレは頭を悩ませつつも勤務時間を終え、家に帰ることなく西野君との待ち合わせ場所まで向かった。 人で溢れている駅前の風景を見つめるのは久しぶりで、オレはちょっぴり緊張してしまう。学生の頃も、人混みは苦手だったから。雪夜さんと暮らすようになって、行動範囲が同棲している家の周りに変わったこともあるのかもしれないけれど。 前はよく、この駅前を通っていたんだなぁ……なんて、オレは独りでノスタルジーに浸りながら西野君が来るのを金色の時計の下で待っていた。 待ち合わせの時刻の5分前、早く着きすぎちゃったかなって、オレがそんなことを思った時。 「……ごめん、お待たせ」 久しぶりに西野君の姿を見たオレは、驚きを隠すことができなくて。 「西野君、え……西野、君?」 西野君が、西野君じゃなくなってしまった。 そう思ったオレは、少しだけ後ずさりしながら西野君の容姿をまじまじと見てしまう。 「やっぱり、そうなるよね。詳しいことは後から話すから、とりあえず人気のないところに行こ」 オレが驚いていることが西野君は想定の範囲内だったのか、混乱しているオレの腕を掴んで西野君はスタスタと歩きだしてしまった。 オレより小さい華奢な体、可愛らしい印象は変わらない……と言うよりも、グレードアップしている西野君。学生服を着ていた時はパッと見が女の子だったけれど、今の西野君は完全に女の子で。 ひらひら揺れるブラックカラーのマキシスカートがオレの視界に入っては消えていき、動きやすそうなシンプルなスニーカーがパタパタと早足になっている。 プルオーバーのパーカーはスカートと同色なのに、西野君の明るい髪色がなんだか甘さを引き立てていて。 ……なんだろう、すっごく可愛い。 西野君に引っ張られながら歩いているオレは、西野君の愛らしい後ろ姿を眺めながらそんなことを思ってしまったんだ。 オレが西野君のことを全く知らなかったら、赤の他人だったなら。オレは間違いなく、今の西野君を見かけたら普通の女の子だって思う気がする。 それくらいに違和感のない西野君の姿は、違和感がなさ過ぎて異様だ。 周りから見たらきっと、オレたちはその辺にいるカップルと変わらない……そう、変わらない。おそらく、変わらないが故に受ける自然な視線がオレにはとても痛く感じて。 「西野……く、はる、き……ちゃ、ん?」 西野君に呼び掛けて一旦歩みを止めてもらうと試みるけれど、周りのことを考えると、西野君の完璧な女の子スタイルを目の当たりにしてしまうと。 オレは、西野君をなんて呼べばいいのかすら分からなくなって。オレはヤケクソで、西野君の名を途切れ途切れになりつつ呼んでみたれけど。 西野君からの返事はないまま、オレは西野君に腕を拉致された状態で駅構内を彷徨くことになってしまったんだ。

ともだちにシェアしよう!