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夢と真実 5

可愛い女の子。 ……いや、男の子。 その子に引き摺られて辿り着いた場所は、なんとも懐かしい煌びやかな建物の前。カラオケ店って、どうしてこんなにも派手な店構えをしているんだろうと思いつつ、オレは西野君に連れられるがまま足を進めていく。 「……ふぅ、やっと個室に移動できた。青月くん、わけも分からずこんな所に連れてきちゃって本当にごめんね」 西野君の手に握られているのは、もうオレの腕じゃない。カラオケボックスの個室へと足を踏み入れた西野君の手には、使わないマイクとフリードリンク用のグラスが2つ入ったプラスチックのカゴが握られている。 西野君に聞きたいことは山ほどあるけれど、人混みをすり抜けるようにしてこの場所までやって来たオレは、とりあえず部屋にあるソファーに腰掛け深呼吸する。 「西野、君……えっと、大丈夫?」 何がどう大丈夫で、どうなっていたら大丈夫じゃないのか分からない。でも、掛ける言葉が見つからないオレは、西野君にそう訊ねていた。 「僕は大丈夫だよ。それより、青月くんの方が大丈夫じゃないよね。僕はこんな格好で現れるし、そうかと思えばいきなりこんな所に拉致されちゃうし」 オレを気遣ってくれる西野君は、スカートの裾を気にしながらオレの隣に座り込む。その仕草が、女の子よりも女の子らしく見えて。 「いや、オレは別に……でも、西野君がどうしてその格好をしていて、なんでこの場にオレを連れ込んだのかは気になるかも」 率直な意見を言ったオレは、なるべく不自然な笑顔にならないように考えながら西野君に笑いかけたんだ。 「……この場所はね、本当はもう二度と来ないつもりでいたの。弘樹くんと付き合ってからは、それこそ一度も利用してない場所だったから」 西野君がまだ弘樹と付き合う前に、オレは西野君と2人でこのカラオケボックスに来たことがある。その時は知らなかったけれど、西野君はこの店を利用して身体を売っていたらしいから。 目を背けたくなる過去の自分が蘇るよな場所に、自ら訪れた西野君の気持ちは痛々しく感じて。 「でも弘樹くんがあんなことになって、僕もちょっと疲れちゃって……もう一度、この場所に来てみたら、弘樹くんに対する僕の思いが少しは変わるんじゃないかと思って、青月くんをここに連れてきたの」 巻き添えを食らったらしいオレだけれど、西野君がどうしてこの場所を選んだのかは理解できた。独りで訪れるには辛過ぎるお店、でもオレが居れば少しは気持ちも楽になるのかもしれない。 そう思ったオレは、オレがしっかりしなくちゃって……なんだか不思議な使命を感じてしまう。本来なら、弘樹がするべきことなんだろうと思う。でも、西野君の本音を聞いてあげられるのは、今はオレしかいない気がして。 「オレは大丈夫だから、西野君が話したいように話してくれればいいよ。その可愛らしい服装にも、弘樹絡みで何か意味があるんでしょ?」 西野君が話してくれるなら、どんなことでも構わない。そんな意味を込めて、オレは西野君に問い掛けた。

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