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夢と真実 7
弘樹は、女の子に恋をしないんだろうか。
西野君の言葉を聞いて、ふと浮かんだ疑問。でも、オレはそれを最後まで声にすることができなくて口篭る。
すると、西野君はオレに小さく微笑んで。
「分からない、よね。たぶん、弘樹くん自身も分からないんだと思う……けど、この先も僕は、弘樹くんの傍にいたいの」
心は偽れないけれど、性別なんて関係なくオレたちは人を愛したいんだって思ったから。西野君はやっぱり、先のことを考えているんだなぁって……そう感じたオレは、弘樹の言葉を思い出して胸が痛くなった。
お互いに好きな気持ちは変わらないのに、今を見ている弘樹と先を見る西野君とでは考え方がすれ違う。そんな中で起こった弘樹の浮気騒動は、起こるべくして起こった問題なのかもしれない。
「弘樹くんと女の写真を見た時から今日までずっと、僕は色々考えたんだ。僕が女装するだけじゃなくて性転換とかすれば、そしたら僕は弘樹くんの隣にいられるのかな、とかね」
「でも、西野君は女の子になりたいわけじゃないんだよね……弘樹のことを思う気持ちは分かるけど、西野君がこれ以上無理する必要ってあるのかな?」
女装だって、好き好んでしてない西野君。
オレに率直な感想を聞くためだけに、今日の西野君は嫌な思いを隠して女の子の格好をしているから。
自分が我慢すればいいって考えは後々、西野君が今よりもっと辛くなってしまうんじゃないかってオレは思ってしまうけれど。
「もしも弘樹くんが望むなら、それでもいいって……思えると、思ってた」
独り言を呟くように、そっと声を出した西野君は視線を天井へと移す。
「……ただ女って生き物が嫌いなだけで、でも誰かからの愛は欲しかった。生きてていいよって、僕の存在を一瞬でも承認してくれる人が欲しかった。だから過去の僕は、ここで偽りを愛したの」
普段、毒を吐くこともある西野君。
でも基本的には誰とでも仲良くやっていけるタイプだと、オレはずっと思っていた。
西野君の過去のことは、オレはあまり詳しく知らないし、聞いちゃいけない気がしていたから。今までは、西野君の隠された内面に触れることはなかったけれど。
「僕の父親は、僕のことに一切感心がない。母親は、父さんの繰り返す浮気に耐え切れなくて気がおかしくなっちゃったから、入院しっぱなし……気がつけば僕は、誰からも愛されない子供になってたんだよね」
笑うこともなく、泣くこともなく。
淡々と話す西野君が、本当はとても辛いんだろうと思うと、オレの方が泣きそうになってしまう。
「そんな僕のこと、弘樹くんは守ってあげたいって言ってくれた……俺が悠希を守るからって、そう言ってくれたの。それなのに、それなのにさ……っ、う」
辛い時、辛いと素直に言葉にしても。
誰にも届かなかった想いが、一気に溢れ出すみたいに。西野君の瞳から涙が零れ落ちていき、そして西野君は両手で顔を覆い、泣き崩れてしまった。
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