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夢と真実 8

こんな時、オレはどうしたらいいんだろう。 オレがもし、西野君の立場だったら……オレは、西野君と会う前からそう何度も考えた。 そして、今。 オレの前で泣いている西野君の気持ちを憶測ではあるけれど少なからず共感できるオレは、どうしたら西野君の支えになれるのかを考えてみる。 何かしてあげたいと思う気持ちと、落ち着くまではそっとしておいてあげた方がいいんじゃないかと思う気持ちが交差して。なんて声を掛けていいのやら、声を掛けられたら余計に辛いんじゃないかとか。 オレは考えを巡らせていくけれど、結局オレは何もできないまま西野君の啜り泣く声を聴いているだけだったんだ。 それでも、やっぱり何かしたくて。 西野君のサラサラな髪が涙でぐしゃぐしゃになっているのに気づいたオレは、仕事用で使っているリュックのからハンドタオルを取り出した。 「……西野君、これ、使って?」 ふわふわで柔らかな素材のハンドタオルを差し出し、オレはそう言って西野君に声をかける。すると、西野君はしゃくりあげつつも小さな声でありがとうと言って、オレが差し出したハンドタオルを手に取ってくれた。 けれど、またすぐに無言の時間がやってきてしまって。オレたちがいる部屋の隣からは、楽しそうな歌声が少しだけ漏れて聴こえてきたんだ。 似たような空間で同じ時を過ごしているお隣さんはきっと、オレたちがこんなにも暗い気持ちでカラオケボックスにいるなんて想像もつかないのだろうと思った。 不安に塗れた心の中が、体外へ飛び出しているみたいに。西野君の泣き声は次第に弱くなり、隣の人の歌声が段々と大きくなって。 「……っ、この曲、知っ、てる」 溜まっていた感情が一気に溢れ出して少し落ち着いてきたのか、西野君はそう言ってオレが渡したタオルでゆっくり涙を拭き始める。 「隣の、歌……ひろ、くんっ、がね」 「うん、ゆっくりでいいよ」 ひくっ、ひくって。 泣き過ぎて酸素が足りていない西野君は、必死に喋ろうとしてくれているけれど。無理に話そうとしなくても、オレは待ってるから大丈夫だよって気持ちを込めて……オレは西野君に微笑むと、西野君の背中をなるべく優しく摩っていく。 ゆっくり、ゆっくり。 何度か深呼吸を繰り返して西野君が呼吸を整え、涙も止まり、息が乱れなくなった頃。西野君はオレに、ごめんねとありがとうを伝えてから話し出して。 「……さっきの曲ね、弘樹くんが好きな歌なんだ。青月くんには内緒にしてた弘樹くんの想いが詰まってる曲、僕にだけ教えてくれた弘樹くんの大事な気持ちを歌ってくれる曲なの」 「オレには、内緒?」 オレが知らない弘樹の想いって、なんだろう。 そう思っても分からなくて、オレは首を傾げて西野君を見てしまう。 「君が好きだって、弘樹くんは叫びたかったみたいだよ」

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