98 / 124
夢と真実 10
いつか別れる日のために、好きな気持ちを押し殺して笑う人。どんなに苦しくても、辛くても、笑顔でオレを支えてくれた人。
オレの兄ちゃんのような思いをこれから西野君がしていくのかと思うと、オレは西野君の気持ちをなんとかして動かさなきゃいけないと思うのに。
「青月くん、今日は付き合ってくれてありがとう。おかげでスッキリした」
さっきまで泣いたことが嘘のように、オレに笑顔を見せる西野君に、オレは声を掛けることが出来ないままだった。
そしてその後、西野君はあっさりとカラオケボックスを立ち去り、オレも西野君の後を追い掛けるようにして駅まで向かったけれど。
さよなら、またねって。
そう言って人混みの中に紛れて消えていく西野君の背中を見送ることしか出来なかったオレは、ひとり自宅に戻り大きな溜め息を吐いた。
「……はぁ」
自分の悩み、他人の悩み。
オレにとってはどちらも重要で、雪夜さんのことも、西野君のことも、オレの中で悩みになったまま解決はしない。それどころか、なんだか問題がどんどん深刻化している気がして。
誰もいないリビングを見つめソファーの上で膝を抱えたオレは、色々と考えることを一旦止めてみようと目を瞑る。
考え過ぎも良くないんだろうし、人生はなるようになるんだからって。酷く無責任な思いを抱きながらも、その反面ではやっぱり納得できない自分がいて……オレの思考は、ぐるぐる回るんだ。
オレは幸せなはずなのに、今の生活に不満なんてないのに。不満がないからこそ不安になる気持ちは、どう整理すればいいのか分からない。
不満があって不安なのなら、不満なことを解決すればいいと思う。それで不安が消えるのなら万々歳だと思うし、解決方があるならそれでいいと思うけれど。
特に問題点が見つからないのに、心のどこかで常に不安感を抱えているのは精神的に辛い。
オレは、オレは雪夜さんが見た夢に振り回されているだけなんじゃないかと思ってみても、それでもやっぱり不安は消えなくてオレはソファーの上から動くことができずにいる。
西野君と弘樹のことだって、オレが首を突っ込む話じゃなくなっていることも、オレは分かってるんだ。分かっているのに、オレは2人のために何かしたいと思ってしまうから。
オレの気持ちは、全部いらないお節介なのかなって……何も考えないようにしていたはずなのに、考えを巡らせて出てきた答えはそんなものだった。
自分は優秀な人間じゃないし、オレは何もできない人間だって分かっている。分かっているからこそ、誰かの役に立ちたいって思うのに。それが空回りしている気がして、 今日1日考え過ぎたオレはもう何もしたくなくなってしまったんだ。
無気力ってきっと、今のオレのことなんだろうと。そう思っても身体は動かなくて、オレはこの日、雪夜さんと暮らしてから初めて、夕飯の支度をせずに、何もせずに、雪夜さんの帰宅をただただ待っていることしか出来なかった。
ともだちにシェアしよう!

