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夢と真実 11
雪夜side
ストレスを感じているらしい心で、見た夢の忠告を考えずに過ごして1週間。考え事は山ほどあるが、星との生活は相変わらず穏やかだ。
穏やかだと、思っていたんだが。
今日の仕事も終わり、普段通りに帰宅した俺は部屋の中を見渡し……そして、ただいまと告げることなくソファーでポツリと膝を抱えている星くんを抱き締めた。
「雪、夜……さん」
「星、どうした?」
おかえり、ただいま。
当たり前のようにしていた挨拶がない帰宅に、戸惑っているのは星よりも俺の方なのだけれど。明らかに様子がおかしい星に問い掛けた俺は、仔猫の頭をそっと撫でてやる。
「あの、ごめんなさい。オレ、今日なんにもしてない……ご飯も作ってないし、お風呂も、洗濯物もまだ取り込んでない」
俺が帰宅した時、まるで抜け殻のようだった星に魂が戻ってきたかのように。星はハッとした顔をして、俺の手を取り謝ってきた。
いつもなら、俺の帰りに合わせて準備されている夕飯も、風呂も、なにひとつしていないと呟き、星は少しだけ顔を上げて俺を見つめてきたから。
「んなこと、気にしなくていい。それより、何があったか話してくれるか?」
家事をしていないことを気に病んでいるらしい星に、俺はなるべく優しく声をかけるよう努めた。すると、星はこくんと頷き、俺の背中に腕を回して。
「……雪夜さん、オレはなんにもできない人間なんです。西野君がね、西野君が……っ、ひろ、ぃ……ぅ」
一生懸命話をしようとしている星は、俺が話の主旨を理解する前に泣き出してしまう。そういえば、今日コイツは西野に会うとか言ってたっけ、と……さっきまでは仕事で埋めつくされていた脳内の片隅にいた記憶が、俺の中でひょっこり顔を出していく。
「予定通り、お前は今日西野に会ってきたんだな。ゆっくりでいいから、落ち着いて深呼吸しろ。お前は、なんにもできない人間なんかじゃねぇーよ」
西野の野郎が俺の可愛い仔猫に何を吹き込んだのかは分からないが、毎日俺のために尽くしてくれる星がなにもできない人間なわけがない。
そう思い、俺は俺に抱き着いて泣いている星を引き剥がし、ポロポロとキレイに落ちてくる涙を親指で拭ってやる。
「でもっ、でも……オレは、ぁ」
「せーい、大丈夫だから。お前の頑張りは、お前よりも俺の方が分かってる。毎日、ホントいつもありがとな」
「ゆぅ、ぁ……ぅ、うー」
……俺、なんかマズイこと言ったか?
そう出てきそうになった言葉を呑み込み、滝のように流れ始めた星の涙をマジマジと見つめた俺は、通勤用のスーツのまま再び星を腕の中へと招き入れた。
星が喋るはずだった言葉は、涙と薄い酸素で掻き消されていき、俺のスーツは次第に濡れていく。
感情が溢れて泣いている今の星は、このことに気づいていないのだろうが。コイツが落ち着いて話せるようになったら、仔猫さんはまた俺に謝ってくんだろうなと。
俺は少しだけ頬を緩ませながら、仔猫が落ち着くまでの間、小さな背中をポンポンと撫でてやっていた。
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