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夢と真実 12
何も出来ないと泣く仔猫だが、コイツはどれだけ人に尽くせば納得がいくのだろう。
自分の心は、自分のためだけに使えばいいのに。他人のためにも心を使い、持っている優しさを分け与えてしまうコイツは、自分が一体どれだけの人間の心を癒しているのか気づいていない。
出来ることなら、その全てを俺のために使ってほしいと思うけれど。他人を思いやれる星の心は大切にしてやりたくて、俺は仔猫の心を縛りつけることが出来ないでいる。
弘樹と西野の間に入り、互いの意見の食い違いで無関係な自分までもが悩んでしまって、どうにも出来なくなった星くん。
純粋な気持ちのままで大人になっていく仔猫さんは、純粋が故に西野と弘樹の仲を修復したくて必死だったんだろうが。
「西野君が、ね……弘樹と、別れてもいいように、気持ちの整理を少しずつつけていくって……」
ある程度、涙を流して落ち着いたのか、話し出した星くんはゆっくり言葉を紡いでいく。
「弘樹が言ってたこと、間違いじゃないのかもしれない。オレは運がいいだけで、男同士で生きていくのって、本当はムリなのかもしれない」
喋っていると、また溢れ出しそうになる涙を堪えつつ、星は俺の目をまっすぐに見つめてそう言った。
「確かに、弘樹の意見も間違いじゃねぇーとは思うけど。ムリって決めつけんのは、違うんじゃねぇーのか?」
「でも、兄ちゃんもそうだった……オレの所為で、兄ちゃんは優さんと別れるつもりでいたんだもん……雪夜さんだって、もしかしたらそのうち、オレが邪魔になる日がくるかもしれないもん」
一度マイナスなことを考え始めると、きりがない仔猫。西野と弘樹の不安に触れて、自分までもがその不安に呑まれてしまっている星は、俺の肩に額を寄せる。
「男同士じゃなくても、当たり前の生活を当たり前にしていくのは難しいもんだろ。俺にはお前が必要なんだ、この先もずっと……お前は、何があっても俺の傍にいろよ」
目まぐるしく過ぎていく毎日の中で、愛おしい想いを伝えてやることを俺はつい忘れそうになるけれど。周りの人間がどうであれ、星にだけは幸せを感じて欲しくて、俺は仔猫のおでこにキスをした。
すると、星はゆっくり深呼吸を繰り返しながら俺の言葉を噛み締めるように小さな笑みを零して。
「雪夜さん……ぎゅーってして、チューってして、よしよしして、ほしい」
……すげぇー、全部擬音のお強請りじゃねぇーか。
泣いた後の潤んだ瞳を俺に向け、愛らしさ全開で俺に強請ってくる星は可愛過ぎる。
抱き締めて、キスをして、頭を撫でてほしいと。
俺は、出来ればその先も堪能したいんだが……まずは星の心のケアをしてやりたいと思った俺は、仔猫さんの要望に従い星を抱き締め、唇にキスを落とした。
「……っ、ん」
「星、愛してんぞ」
「オレも、雪夜さんが大好き。大好きだから、不安になる……オレは、オレは雪夜さんの傍にいてもいいのかなって。でも、ダメですね……オレは雪夜さんから離れたくないし、離してほしくないもん」
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