105 / 124

夢と真実 17

クズ女とバカ男のカップル誕生、それが本当に男女の付き合いとして成立しているのかは不明だ。 康介は単純に舞い上がっているようだったが、弘樹を陥れた愛ちんがこの1件で康介のことを好きなったなんてことは考えにくい。 彼氏彼女の関係なのか、はたまたセフレ関係なのか……考えるだけ無駄なことを思いつつも、俺は通話を終えたスマホをただぼんやりと見つめていた。 帰宅後に自らの手で脱ぎ散らかしたスーツを明日の出勤前にクリーニングに出さなきゃならないことや、有耶無耶な状態のままにしてしまった星の心のフォローとか。 やるべき事は沢山あるのに、星と身体を繋げた安心感からか、俺の頭はぼんやりとしていて。このまま何も考えず、何もせずに生きて行けたらどれだけ楽なんだろうと……そんな思考を巡らせながら、それでも煙草に手を伸ばした自分に苦笑いした。 何もしたくないと思っているのに、身体は無意識に煙草を求めている。何もしたくなくても、腹はへるものだし、生きて行くために行動することは必然的で当たり前のこと。 それを理解しているからこそ、仕事をして金を稼いで、限られた空き時間を利用し、自分や恋人のために余暇を有意義なものにしようと努力するけれど。 俺はどれだけ努力を重ねたら、星がどれだけ我慢を積んだら、星が望む幸せを掴むことが出来るのだろうと。考えても分からない疑問が煙草の煙と共に浮かんでは消えていくばかりだ。 弘樹と西野の問題を解決していなくても、俺と星は繋がり合える。星の不安を見て見ぬふりして、俺が身体を求めたら、星はそれに応えてくれたが。 自分たちだけの問題ではない以上、他人事まで気にかける星の気持ちを俺が動かすのは根気がいる。お前は何も悪くないと、その存在を認めて愛を伝えてやること以外に、今の俺がしてやれることはなかった。 お互い社会人になること、2人で暮らすこと。 容易ではないにしろ、ある程度穏やかな生活を送れるように様々なことを予測してきたけれど。俺たちの生活が周りにいる人間の手によって振り回されることを、俺は想定出来なかったから。 己の手だけではどう足掻いても問題解決まで辿り着けない現実に直面し、俺は独りで反省する日々が続いている。 「……めんどくせぇーなぁ」 吐いた紫煙に本音が混ざるが、弘樹と西野の件が一刻も早く解決するように俺は星のために動いてやらなきゃならなくて。 それが結果的に星と俺の安定に繋がることを信じ、俺は弘樹に連絡を入れようと真っ暗なスマホの画面をタップした。 緑色のアイコンに触れ、その中からバカ犬を見つけ出して。 お前は無実だ、と。 たった一言、それだけを弘樹に送った俺は、重い溜息を吐きつつ煙草の火を消した。

ともだちにシェアしよう!