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夢と真実 18

弘樹に無実だと告げたところで、現状が変わるわけではない。星が西野に真実を伝えない限り、アイツらの問題は時が止まったまま動き出すことはないだろう。 分かってはいるものの、可愛い可愛い星くんが俺を感じた後に穏やかな眠りについているというのに。バカな男たちのために、今から星を起こして西野に連絡しろなんて俺には言えないから。 今日はもう、愛しい恋人の温もりに触れて俺も眠りにつこうとソファーから立ち上がった時。震えたスマホに視線を落とした俺は、弘樹からの着信を見なかったことにして寝室に戻っていく。 ここで弘樹と話しても、俺が疲れるだけだろうと。何かしら本当に伝えたいことがあるのなら、そのうちLINEの通知が届くだろうと。 今の俺は他人のことまで抱え込めないから、そこまでの余裕は、もう随分前からなくなっているから。 本当は、自分のことで精一杯で。 俺が俺として今日を生きただけで、それだけで素晴らしいことなんじゃないかと……自分で自分を褒め称えてやり、なんとか毎日をやり過ごす日々にも限界が近づいているように思う。 無気力症候群、鬱病、とか。 心に病を抱えるほど、俺は人に気を遣って生きているつもりはないけれど。俺だって休みたい時くらいあるのだから、と。 そんないくつもの理由を並べ、弘樹の話を聞いてやれない自分の気持ちを正当化して。 疲れ果てた心に小さな光を与えてくれる星の寝顔を拝む俺は、自分が一体何をしたくてどのような方向に進みたいのか分からなくなった。 ただ、一緒にいたいだけ。 それなのに、星を大切にすればするほど俺はすり減っていくような気がする。星からは癒しを与えてもらっているはずなのに、どこか不安でどこか寂しい。 「……星」 名を呼ぶことも、隣で眠ることも。 こんなにも容易くできるようになったのに、離れていた時の方が見えないものが見えていたような気がしてしまうのだ。 そう感じるのは、俺に原因があるのかもしれない。仕事の問題、弘樹の問題、星の家族のことや、近くて遠い未来のこと。考えても仕方ないことなのかもしれないが、つい考えてしまう余計な問題から俺は目を逸らせないから。 忘れようと思い目を閉じるのに、頭の中で次々に浮かぶ小さな悩みは増えていくばかりで。寝たいのに眠れない、そんな長い夜がまた始まることが恐ろしくなるけれど。 かっこつけたいわけでもなければ、弱さを見せることを恐れているわけでもないのに。自分の中で順を追って説明できるだけの心の整理をしなければ、星に甘えて俺の悩みを話すのは早い気がして。 すやすやと眠る星を抱き寄せ、せめてこの小さな温もりだけでも心の癒しとなるように、俺は星の首筋に顔を埋めていったのだった。

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