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夢と真実 19

眠れぬ夜から解き放たれ、そうして訪れた朝は様々な雑音と共にやって来た。 洗濯機、掃除機、家の中の家電製品が朝から大忙しで稼働している。そしてそれらのスイッチをオンにし、これまた大忙しで動き回っているのは俺の恋人で。 「……はよ、星くん」 雑音が大きく聴こえてくるリビングの扉を開け、俺はパタパタと家事をする星くんに声をかけた。 すると、俺に背を向けていた星くんがパッと振り返り、バツの悪そうな顔をして俺を見て。 「あ、おはようございます。あの、昨日はすみませんでした……オレ、昨日何もせずにそのまま寝ちゃったから。昨日の分まで今日はちゃんとやろうと思って早起きしたんですけど、雪夜さんのこと起こしちゃいましたね」 そう言って俯いてしまった星は、テーブルを拭いていたらしい布巾を握り締めてしまう。 俺から見ればそんな仕草も実に可愛らしいし、星の気持ちはありがたくて仕方ない。しかし、そうとは捉えていないらしい星くんを抱き締めようと俺の気怠い身体はのんびりと動き出す。 「星くん、本当は身体辛いんじゃねぇーの。家事も、俺のことも気にせずにまだ寝てても良かったんだけど……変に気を遣わせたな、大丈夫か?」 そう遠くはない場所にいる星の小さな身体を優しく抱き締め、星の耳になるべく優しく聴こえるように俺は仔猫に問い掛けた。 「腰はちょっぴり痛い気もしますけど、オレは大丈夫です。それに、オレお腹空いちゃって……朝ご飯を作るついでに洗濯とお掃除もしちゃおうかなって、朝から欲張り過ぎちゃいました」 しゅんとしていたはずの仔猫だが、俺が怒ってないことを感じ取ったのか、布巾を握り締めていた手の力が次第に弱くなって。 恥ずかしそうに、少し遠慮がちに。 俺の首に腕を回す星くんは相変わらず可愛らしく、それでいて主人に尽くしてくれる最高の若妻のようだと思った。 実際に俺より若いし、星は俺の妻のようなもんだけど。どうやら俺の思考は少しばかり緩んでいるらしく、自分で思った若妻というキーワードに俺の頬はニヤけてしまう。 2人だけなら、誰にも邪魔されなければ、俺と星はこんなにも平和な朝を迎えることが出来るのに。 ニヤけた頬を元に戻すどころか、逆にへの字口にしてしまいそうなほどの話を思い出した俺は、星を抱き締めたまま声を出す。 「なぁ、星くん……弘樹はやっぱ無実だったって昨日の夜中に康介から連絡きたんだけどよ、事の詳細を星から西野に伝えてやってくんねぇーか?」 弘樹のため、西野のため、そして何より星のために。俺は自分自身で、穏やかな時間を忙しない時へと変えてしまう。 俺の問いに、星が「嫌だ」と言わないことを知っていて。星が西野に連絡をしなければ、弘樹は西野と連絡が取れないことを知っていて。 俺は今日も、星との少ない時間を犠牲にして。 「分かりました、早速西野君に連絡しますね」 当然のように俺の手から離れ、嬉しそうに目を細める星の笑顔を瞳に映しつつ、どこか冷めた心を隠して俺は星に微笑んだ。

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