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夢と真実 20

星が俺から離れて30分後。 俺が星の代わりに朝食の用意を済ませ、洗濯物を干し終わった頃。寝室で西野と通話していたらしい星はリビングに戻ってきて、そしてキッチンに立っていた俺に抱き着いてきた。 「……西野君、やっぱり弘樹とは少し距離を置くみたいです。自分のことや弘樹のこと、これからのことをよく考えたいからって」 「そっか……まぁ、真実が分かってもすぐには気持ちの切り替えなんてできねぇーってのが本音だろうな。残念だとは思うけど、俺たちにできることはもうねぇーよ」 友達の助けになりたいと、星は俺を頼り弘樹と西野の復縁を望んでいたが。真実を西野を告げても、現状が変わらないことを知った星は分かりやすく落胆する。 しかし、第三者の俺たちができることは何もなくて。今を受け入れることも必要だと思い、俺は星の頭を撫でつつも現実を伝えた。 「オレ、余計なことばかりしちゃったのかもしれません。そっとしておけば良かったのかなって、当人同士の問題だから、話を聞くだけで良かったのかなって」 俺の胸に頬を寄せ、溜め息を吐きながら己の言動を振り返る星くん。俺なら間違いなく首を突っ込むことは避けるが、心の優しい星はそれができなかったから。 星の頑張りに見合った結果ではない今回の問題は、ある意味で星くんにいい刺激を与えたのかもしれない。 「お前がアイツらにしたことの全てが、悪いわけじゃねぇーだろ。弘樹とぶつかったことも、西野の意見を心から受け止めたことも……アイツらが今後どうなるか分かんねぇーけどさ、星が落ち込む必要はねぇーから」 何度も似たようなことを言っている気がするけれど、俺がこうして星を励ましてやると、星くんは少し気持ちが落ち着くようで。 「やってあげてるからとか、してあげたからとか。見返りを求めるわけじゃないのに、オレは勝手に弘樹と西野君が仲直りすることが幸せだと決めつけてたんです」 すりすりと、どんどん俺にくっついて。 くぐもった声でそう話す星は、俺が思っている以上に理解力がある。 気持ちの整理、心のケア、俺は昨日のうちにそれをしてやれなかったことを悔いていたけれど。この仔猫は社会に出てから俺の知らぬ間に大人になり、そしてそのスピードを上げているらしい。 「オレは弘樹と西野君がどんな決意をしても、友達として受け入れられるように心の準備をしなきゃいけないんですよね。2人が別れちゃうのは考えたくないけど、でもだからってオレが2人の友達を辞めちゃうわけじゃないから」 「そうだな……ってかさ、お前はいい子過ぎんだろ。こんなに可愛くて心の優しいヤツが、俺の傍にいてくれるなんてな、なーんか色々やべぇーわ」 俺に抱き着いて顔を埋めている恋人はなかなか顔を上げようとせず、俺は星の旋毛に話し掛けているような気分になっているんだが。 それでも、旋毛すら愛おしく感じる相手を抱き締めることのできる今を冷静に考えた俺は、星が俺の傍にいてくれることに心の底から感謝した。

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