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愛と勇気 2
「2月って28日間しかないんですよね。閏年でも29日間だし、同じ1ヶ月でも日にちが少ないって不思議な感じです」
ミノムシだった雪夜さんが人間になり、テレビのニュースを観ながらリビングでコーヒーを飲んでいる。そんな雪夜さんにオレは、壁掛けのカレンダーを眺めつつ声を掛けた。
変わっているようで変わらない日々、変わらないようで変化のある日々。小さな変化の塊に何気なく気付くごとに、オレは見て見ぬふりをしつつも、いいとこ取りをしながら生きている。
オレが独りで、又は雪夜さんと2人で周りのことをいくら考えても。直接的にオレたちには関係のないことなら、考え過ぎない方がいいことをオレは学んだ。
夏から半年近くを過ごし、もうすぐで雪夜さんと暮らし始めて1年が経ちそうだけれど。
雪夜さんの仕事の悩みをオレが聞くことは殆どなくて、でもオレが雪夜さんに相談することは沢山あって。弘樹と西野君の一件から、雪夜さんの疲労感が少しずつ見え隠れするようになったから。
雪夜さんに甘え過ぎないように、オレが雪夜さんの癒しとなれるように。
雪夜さんの心の安定を犠牲にして、友達のことを思うのは違うんじゃないかって。オレが優先すべき相手は雪夜さんだから、まずは自分たちのことをしっかりと見ていかなきゃって。
友達を見捨てるのではなく、オレはどんな結果になっても受けいられるだけの心の余裕を作ろうと思ったんだ。
ちゃんと雪夜さんだけを見つめてみたら、オレがどれだけ雪夜さんに頼っていたかを思い知った。自分で考えなきゃならないことも、独りでは背負えないからって雪夜さんに甘えてしまっていた。
恋人だから、甘えることは悪いことじゃないって雪夜さんは言ってくれるけれど。そんなに頑張らなくても大丈夫だって、優しく笑ってくれるけれど。
一緒に暮らしている以上、背負うもののバランスはお互いに同じ重さになるようにしなくちゃ……雪夜さんは、自分でも知らない間にストレスを抱えてしまうんだ。
分かっていたようで、分かっているつもりなだけだった同棲の難しさ。雪夜さんの負担にならないように、オレはオレなりにこの半年近くを過ごしてきて実感したことがある。
大きな愛と、小さな勇気。
そして、明るさのある希望を持って。
些細なことでも、自分が行動を起こせば相手の言動に変化が起こること。雪夜さんが隠している悩みに、触れられない自分がいること。
見えなかったことが見えてきた日々は、雪夜さんの笑顔を取り戻しつつあるけれど。その分、オレの中で黒い影がひっそりと伸びていること。
「真夏だった8月とか恋しいな。冬は寒いし、雪降るし……あ、雪で思い出したけどよ、西野の野郎はどうなってんだ?」
……ほら、また。
幸せを感じる中で、訪れる不安。
オレのことより、雪夜さんはどうなんだって。
今日もまた、問うことの出来ない自分が涙を隠して。オレは、何食わぬ顔をして雪夜さんの前で笑うんだ。
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