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愛と勇気 3
西野君と弘樹は、あの浮気騒動からまだ1度も顔を合わせていないらしい。お互いに連絡すら取っていないらしく、周りから見ると西野君と弘樹の2人はもう別れたカップルのような行動を取っているけれど。
「2人とも、お互いに離れて思うことは沢山あるみたいです。それぞれと個別に連絡は取ってますけど……どちらかが動き出さない限り復縁はない、かな」
西野君に拒絶された弘樹は、西野君の意見を受け入れたから。お互いに離れてみて、それでも弘樹が西野君のことを好きだと思えたら。
そしたら、また1から関係をやり直そうって。
西野君が弘樹に伝えた言葉を弘樹はかなり重く受け止めていたし、実際弘樹は今も西野君のことを想い続けて学業とバイトを両立しながらバカなりに考えて生きているけれど。
弘樹から西野君にもう1度やり直したいと告げるタイミングが難しく、弘樹は西野君に素直な想いを伝えることができないままなんだ。
何も考えず、成り行き任せみたいに思えた弘樹の言動。けれど、少なくとも今は違っていて。本気で西野君との将来を考えようと、その為にはまず自分がしっかりしなきゃって。
小中高と勉強からは目を背けていた弘樹が、今は将来のことを見据えて学業に奮闘している。でも、西野君に想いを伝えるとなると、そのタイミングが早過ぎたら説得力のない言葉になってしまうし、遅過ぎたらお互いの気持ちが冷めてしまうかもしれないって。
西野君のことを考えれば考えるほど、弘樹はドツボにはまって西野君との距離は一向に縮まらない。
西野君は西野君で、自分から弘樹と距離を置くと言ってしまったから。どれだけ弘樹のことが好きでも、どれだけ弘樹と会いたくても西野君は我慢してばかりで。
2人とも、やり直したい気持ちは同じなのに。
相手のことを思いやり過ぎて、身動きが取れない状況になっている。
「あの1件から弘樹は大人になったけど、その分臆病にもなったんだよ。自分では変わったつもりでいても、また西野に拒絶されたら……そしたら、弘樹に2度目はねぇーからな」
ゆったりとコーヒーを飲んでいる雪夜さんだけれど、発した言葉は厳しいものだった。
恋愛での駆け引きは、なんて面倒くさいものなんだろう。弘樹と西野君に然り、そしてオレと雪夜さんに然り……2人が絶妙なバランスを取っていて、どんなに恋人のことを想っていても。ただ好きな気持ちだけでは、そのうち関係は崩れてしまうから。
「2人がどうするのかオレには分かりませんけど、思ってるだけじゃ相手には伝わらないですからね。言葉にして、声にして、顔を見て……ちゃんと、お互いに今の気持ちを伝えなきゃダメだと思います」
オレは友達の話題に雪夜さんへの本音を交ぜ、トーストしたパンにイチゴジャムを塗っていった。
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