114 / 124

愛と勇気 6

わざわざ職場まで来てくれた西野君と2人、カウンター席に並んで座ったオレは渇いた喉をお水で潤した後に西野君を見つめる。 弘樹と会うことを控えて、連絡を取ることもない今の西野君が、どうして未だに女の子の姿でいるのかオレには疑問なんだけれど。 今日のまかないはなんだろうとか、欲を言うなら温かなクリームパスタが食べたいなとか。空腹まっしぐらな胃袋は、西野君へ色々と質問しようとしているオレの正常な思考を奪っていくから。 西野君に変なことを言ってしまわないように、オレは西野君が喋り出すのを待つことにしたんだ。 店内に賑わいなんて雰囲気はなくて、オレの耳には優しいBGMだけが入ってくる。癒しの空間、安らぎの時間、この場で西野君がオレに相談したいことって、一体何なんだろう。 「……青月くん、弘樹くんは元気?」 「へ……あ、うん、体調崩したりとかはしてないみたいだよ。頻繁に連絡取ってるわけじゃないから、今はどうか分からないけど」 ふぅーっと息を着いた後、話し出した西野君に合わせるようにしてオレは声を出した。でも、咄嗟に並べた言葉を思い返したオレは、不安そうな表情をする西野君に罪悪感を覚えて。 何か言わなくちゃって色々と考えても、西野君を今すぐ元気付ける言葉は見つからずにオレは俯くことしかできなかった。 弘樹と連絡を取っていない西野君は、弘樹がこの半年以上の間で何をしていたのかも風邪をひいていないのかも……大袈裟に言えば、生きているのかさえ西野君は知らないから。 もっと言葉を選べば良かったって、後悔しているオレはやっぱり、友達のことを他人とは思えなくて。また余計なお節介をやいてしまうんじゃないかと、オレが不安を抱えた時だった。 「弘樹くん、元気なんだね。それなら、良かった……僕ね、僕はいつまで強がれば弘樹くんと元に戻れるのかなって、ずっと考えてたんだ」 「西野、君……」 「弘樹くんのこと、青月くんを巻き込んで大きな騒ぎにしちゃったことすっごく反省してる。自分たちの問題なのに、青月くんには色々と迷惑かけちゃったから」 後悔も、不安も。 今のオレは、感情の全てが顔に出ていたのかもしれない。オレがそう受け取ってしまうほどに、喋り出した西野君はオレに気を遣っているように思えた。 けれど、オレに向かい一瞬微笑んだ西野君はすぐに笑顔を消して。 「反省、してる……けど、あと少しだけ青月くんに迷惑かけるね。僕の話、聞いてくれるだけでいいから……だから、お願い」 ゆっくりと頭を下げる西野君に、オレはただびっくりしてフリーズする。でも、なかなか顔を上げようとしない西野君を見て、西野君の気持ちを受け取ったような気になったオレは西野君の頬に触れていた。 「西野君、顔を上げて……お願いされるようなことじゃないよ、友達だもん。話を聞くのは当然だし、オレを頼ってくれて嬉しい」

ともだちにシェアしよう!