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愛と勇気 7
嬉しい、と。
オレの口から出てきた言葉は、オレの素直な本心だと思う。話を聞くだけでも、それが誰かの役に立つのなら。
「僕ね、弘樹くんと会ってない間に複数の人から声を掛けられたことがあったの。こんな格好してるから、相手は僕のことを女の子だと思ってることがほとんどだったんだけど」
髪を耳にかけてそう話す西野君は、弘樹と離れている間に様々な出来事があったのだとオレに告げてくる。
「ご飯だけならいいかなって思って、何度か知らない野郎に着いて行ったこともあったんだ……でもね、その時の僕は弘樹くんと出会う前の僕みたいだったの」
弘樹と付き合う前の西野君は、身体と引き替えにお金を得る付き合いをしていた。そのことはオレも知っているし、もちろん弘樹も知ってる西野君の過去だけれど。
そんな西野君の過去を過去にした弘樹は今、西野君の傍にいないから。もしかしたら、もしかしてって……悪い想像をしそうになったオレを見て、西野君は小さく首を横に振る。
「弘樹くん以外の人とは何もなかったよ、ご飯奢ってもらってさようなら。執拗い野郎を躱すのはなれてるから、今の僕は潔白」
「そっかぁ、良かった……って、言っても大丈夫、なんだよね?」
弘樹とこのまま別れるつもりでいるのか、よりを戻すつもりでいるのか。今の西野君を見ているだけでは判断が出来なくて、でもオレは勝手に弘樹の立場になって話を聞いていたからか、弘樹以外の人と西野君がどうこうなっていないことに安心してしまって。
西野君の前で良かったと言ってよかったのか不安になり、オレは西野君のことを恐る恐る見つめていた。
「大丈夫だよ、青月くん。僕ね、弘樹くんと離れて気づいたことが沢山あるんだ。弘樹くんは僕が男でも好きだって言ってくれて、僕のことを大切にしようと必死だったなぁって……僕、僕が思っていた以上に弘樹くんから愛されてたみたい」
大丈夫。
そう言ったはずの西野君の表情は、大丈夫じゃない。段々と瞳が潤んで、綺麗に整えてある眉はくしゃりと形を変えていく。
「僕、僕はっ……もっと、弘樹くんのことを信じてあげれば良かった。あの時感じていた不安とか、全部弘樹くんにぶつければ良かった……こんなに好きなのにっ、どうして、どうして弘樹くんは僕の傍にいないのっ」
溢れ出した涙を服の袖で拭きながら話す西野君、どうして弘樹が傍にいないのか……その理由は、西野君自身が1番よく知っている。
けれど、だからこそ。
弘樹と距離をおくことを選んだ自分を責めて、でも、離れたからこそ気づけた弘樹への想いに嘘はつけなくて。
意地を張り、強がっても、自分の傍に弘樹がいないことに変わりがない事実を、西野君はもうこれ以上受け入れることができないんだと思った。
「弘樹、くんに……会いたい、よ」
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