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愛と勇気 9
どんなに苦しくても、涙が出ない時もある。
我慢しているわけじゃないのに、泣きたほど苦しいのに。涙が出そうなギリギリのところで泣けなくて、それがまた胸を締めつけてしまうこともある。
だから、素直に泣ける今が大事なんだと。
優しく語ってくれたランさんは、オレと西野君に愛情たっぷりのオムライスを作ってくれた。
西野君の本心が聞けて安心して、とっくの前から空腹を訴えていたオレのお腹はあっという間にオムライスを平らげていく。
「……僕、弘樹くんと会ってみようと思う。こんな格好じゃなくて、僕は僕として弘樹くんに想いを伝えたい」
まかないだとは思えない味のオムライスを食べながら、西野君の呟きを聞いたオレはこくこくと頷いた。
「西野君は強いね、オレも勇気を出さなきゃいけないのかもしれない。先のことを考え過ぎるより、今を全力で生きることだって大事なんだと思うから」
とりあえず、オレはお腹を満たして。
西野君は弘樹に会いに行くと意気込み始めたけれど、そんな西野君はオレの言葉に引っかかりを感じたらしく、オレの顔をまじまじと見つめてくる。
「青月くん、彼さんと何かあったの?」
そう訊ねられ、オレは返答に困った。
何かあると言えるほどの問題は何もない、けれど……心に感じている不安は大きくなっていくばかりで、オレもそれなりに悩みを抱えていることを西野君に伝えるのはどうかと思ってしまったんだ。
「……何もないよ。ただ、オレも頑張らなきゃなぁって漠然と思っただけだから。西野君は、弘樹のことだけ考えてあげて」
雪夜さんがオレに隠し事をしている証拠はないし、オレはオレでまだ何ひとつ行動を起こしていないから。オレの感じている不安が問題と呼べるようになるまでは、不用意に周りの人に伝えるべきではない。
もちろん、問題ではなくただの勘違いで済んでしまうのが1番いいんだろうけれど。
おそらくオレの勘は当たっている、と。
そう思ってしまうのは、嬉しくもあり悲しくもある付き合いの長さからくるものなんだと思う。
「弘樹くんと会うのは、これで最後になるかもしれない。本当に、もう二度と戻れないところまできてしまっているのかもしれない。でも、僕はそれでも今日の僕を後悔しないようにする」
オレの話題からすぐさま話題を弘樹の話にすり替えてくれた西野君に、オレは内心感謝する。
前に進もうと決意を新たにしている西野君が、今のオレには眩しく思えて。今の西野君なら、きっと大丈夫なんじゃないかなって……そう思うと、自分がとてもちっぽけな存在に感じて仕方なかった。
「頑張れ、西野君」
「ありがとう、青月くん」
無責任な言葉を投げ掛けたオレに、微笑む西野君の笑顔が辛い。結局オレは、今回も役に立たずに自分のことばかり考えていたような気がした。
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