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カクシゴト 3
「どうして大人はさ、子供が邪魔なのに俺たちを産むんだろう。いらない存在だって思ってるなら最初から俺を産む必要なんてないと思うし、俺だって茉央に頼んで産まれてきたわけじゃない」
「……飛雅」
「茉央は綺麗なドレスを着て夕方から仕事に行く、色んな男の人に囲まれて喋って笑う仕事をしてる。俺がサッカーで点を決めることよりも、茉央は男の人から貰うプレゼントの方が嬉しいんだ」
家計を支えるため、それは母親としての努めなんだろうが。職種的に、子供にとって環境がいいとは言えない世界に身を置く母親の姿を飛雅は既に知ってしまっているのだと思った。
俺もそれなりに家庭環境が複雑な方ではあったと思うが、俺の場合は親と言うより問題があったのは兄妹で。飛雅の心にどう寄り添うべきなのかを考えつつ、俺は飛雅に問い掛けた。
「お前はどうしてそう思うんだよ、母親から直接そんなこと言われたのか?」
本当に飛雅の母親が飛雅のことを不要な存在だと思っているのなら、飛雅にサッカーを強制させることはしないだろうと思うから。問いの返事が否定的であることを祈りつつ、俺は飛雅の言葉を待った。
「……ううん、違う。でも、茉央はプレゼントを貰って帰ってくるととっても嬉しそうな顔をするんだ。俺がいくらサッカーの話をしても聞いてくれないのに、貰ったプレゼントを抱えてお金の束に替えてくる……その日の夕飯は決まって焼肉なんだよ、意味わかんない」
「焼肉か、そういや最近食ってねぇーな。お前はまだちっせぇーし、栄養あるもん食わせてやりたいと思う親心かもしんねぇーぞ。仕事すんのも、きっと全てはお前のためだ」
ただ、子供の意志とは関係なくサッカーをさせているのにも関わらず、何故飛雅の母親は飛雅の言葉に耳を傾けることをしないのだろう。
しないのか、できないのか。
今のところ飛雅の言葉だけじゃ判断ができないが、飛雅の母親はもう少し子供と向き合う時間を持つべきだとは思うけれど。
「俺のためならさ、茉央はなんで俺を独りにするんだよ。他の男の人の話は聞くのに、どうして俺の話は聞いてくれないんだよ……コーチ、やっぱり俺はいらない子なんだろ?」
……言葉が、出てこなかった。
ずば抜けた才能とセンスを持ち合わせているコイツは、自分がどれだけサッカーで頑張っても母親からの愛情を感じられずに寂しい思いを抱えている。
同い年の子供よりも、ずっと大人びた眼差しで世界を見つめる飛雅。その瞳に映り込んだ俺は、一体どのような大人として捉えられているのだろうか。
「俺、知ってるんだ。子供は親を選べないって……ガチャガチャを回すのが親で、その景品が俺たち子供なんだ。それなのに、子供は親の言うことをなんでも聞かなきゃいけない。おかしいよね、俺たちは景品だったはずなのに」
「確かに親は選べねぇーな、俺にもお前みたいに考えちまう時があったけど。飛雅はもっと自分を大切にした方いい、お前はまだいくらでも未来を変えられる」
「コーチが俺の父さんだったら良かったのになぁ……俺の父さんはさ、本当の父さんじゃないんだ」
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