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カクシゴト 4
過去の俺は、コーチとして飛雅に寄り添っているつもりでいたのに。飛雅の本音は、親としての愛情を求めているように思えてならなかった。
「親、か……」
……俺が飛雅の父親、なのか。
事実確認をしようにも、どうすればいいのか分からない。過去の俺と茉央に男女の付き合いがあったと言っても、今はコーチと保護者の関係なわけで。
個人的に俺が茉央と接触することは難しく、独りで悶々と悩み込んでいるうちに時は過ぎていく一方なのだ。
俺は飛雅のコーチだが、今回の件に関しては仕事と全く関係がない。そのため、竜崎さんや戸田先輩に話すわけにもいかず、恋人である星にすら俺は頼ることができなくて。
結果的に俺は飛雅を知らず知らずに避け、そうして他のコーチに迷惑をかけてしまっていることに頭を下げる、なんとも情けない男になってしまった。
「……キッついわ」
職場の人間にも、星くんにも。
このまま隠し通せるとは思っていないが、俺がこんな状態でワケも分からず周りの人間に打ち明けることは避けたくて。
とりあえず職場を後にした俺が辿り着いた場所は、星が待ってる家ではなかった。
「……あら、いらっしゃい。そろそろ貴方が独りで来る頃だと思っていたわ、雪夜」
「星から何か聞いてたりすんのかよ、ラン」
真っ直ぐ家に帰ることをせず、俺が訪れた場所はランの店。恋人不在で星の職場に足を運ぶのは気が引けて、星が働き始めてから俺はランと2人で話すことがなかったのだが。
「詳しいことは何も知らないわ……ただ、貴方が貴方らしく星ちゃんと接していくためには、此処に来る時間も必要なものだと私が思っているだけよ」
俺を茶化すことなく、そう言ったランの瞳は切なそうに揺れていく。星を独り家で待たせていることに罪悪感を抱いている俺を、ランは救うように優しく迎えてくれて。
「……俺、すげぇーお前に会いたかった」
口からボソリと出た本音に、1番驚いたのは俺だった。
幸いにも店内に客の姿はなく、カウンターから動き出したランは店を閉めて振り返る。
「雪夜、今だけ星ちゃんのことは忘れなさい。自分自身と向き合うために、貴方は自分の意識で此処に来たんだから」
「ラン、俺はもしかしたらお前に会うのが今日で最後になるかもしれない。それを覚悟で、俺はお前に全てを話す……だから、今日だけは、ランだけは、何があっても俺の味方でいて」
誰かに打ち明けることをずっと恐れていた俺が、やっと吐けた弱音。ただ、それと同時に失うものは計り知れない気がして……今にも崩れ落ちそうな体をカウンターに預けた俺は、恐怖心を隠すように瞳を閉じたけれど。
「バカね、最後になんてさせないわ。もう二度と、大切な人を失いたくないもの……雪夜、何があっても私は貴方の味方よ。それは今も昔も、そしてこれからも変わらないわ」
カウンターに突っ伏した俺の横に僅かな音を立て置かれた灰皿と、柔らかく俺の髪を掬っていったランの指先があまりにも心地よくて。
ゆっくりと口を開いた俺は、隠し事の全てをランに打ち明けることにした。
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