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絶望 1
(星side)
待てど暮らせど帰ってこない、とは……きっと、今のオレと雪夜さんのような状態なんだろう。いつも通りの生活を送り、雪夜さんの帰宅を待つオレは、日付が変わり既に1時間が経過している時計の針を見つめ溜め息を零した。
「……ただいま」
静かに開いたリビングの扉、そこから現れたのはオレが待っていた雪夜さんで間違いないのだけれど。
「おかえりなさい、雪夜さん。あの、今日ね……」
今日あった出来事を伝えようと雪夜さんに駆け寄ったオレは雪夜さんの表情を覗き込み、黙り込んでしまった。オレにとっては良い報告だけれど、今の雪夜さんに話すべきじゃないのかなって思ったオレは、西野君と話した内容を言い出せなくて。
「星、このままお前のこと抱いていい?」
帰ってきて早々、とっても疲れた様子でオレに抱き着いてきた雪夜さんにダメとは言えないオレは、自分の話を後回しにすることを決めた。
今しか話せないわけじゃないし、この話はいつでも話せる内容だし。だから今は雪夜さんを受け入れようって思いつつ、オレが雪夜さんの問いにコクンと小さく頷くと。
「…っ、ん」
一瞬だけ柔らかく重なったはずの雪夜さんの唇は、慌ただしく次へと進もうとしていてオレは違和感を覚えていく。
腰に回された手と、宙に浮いていくオレの身体。オレを抱きかかえて玄関から寝室へ移動しながらも、雪夜さんからの口付けは止まないままで。
「ぁ…ン、ちょ…待っ、て」
優しくて甘いキスとは違う、激しくて熱い欲のようなものを感じる雪夜さんらしくない荒いキスが続き、オレは上手く呼吸ができなかった。でもそれは、何度か経験したことがあるもので……オレにこんなキスをする時の雪夜さんは大抵、何かしらの不安を抱えていることが多いから。
「雪夜さ…やっぱりダメ、です」
押し倒されたベッドの上で雪夜さんがオレに覆いかぶさった時、呟いたオレは雪夜さんを見上げてダメだと伝えたけれど。
「今更ダメっつっても遅せぇーんだよ」
雪夜さんに刺激されて勝手に熱くなっていく身体は、気持ちいい行為を待ち望んでいるのに。オレはそれよりも、雪夜さんが心配で。気持ちよさに流されることをなんかとかして阻止しようと、オレは雪夜さんの髪をぎゅっと掴んでしまう。
いつもの優しい雪夜さんだったなら、本当はこのまま仕事帰りの雪夜さんとエッチなことをしたい。スーツ姿の雪夜さんに毎日ときめいているオレは、何も考えることなく溺れるような快楽に身を任せてみたくなる時もあるけれど。
緩んだネクタイよりも、艶めいた唇よりも。
すぐに触れられる身体より、オレは雪夜さんの気持ちを知りたくて。オレがダメ押しで雪夜さんの首筋を力強く噛んだら、雪夜さんの動きが止まったから。
「何があったのか、教えてください。オレ、今の雪夜さんとエッチなことするのはイヤです」
暴れて抵抗するよりも効き目があったらしいオレの一言で、雪夜さんからは大きな溜め息が漏れていく。
「この状態でお預けくらうの、すっげぇーキツいんだけど……お前には適わねぇーな、なんで分かっちまうんだよ」
「分かりやすい雪夜さんが悪いんです。雪夜さんの気持ちが落ち着いたらちゃんと抱かれたいので、先にお風呂入ってきたらどうですか?」
「……そうする」
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