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絶望 9

「…っ、ん」 交わすキスが、優し過ぎて痛い。 雪夜さんのことをもっと知りたいって、もっと理解したいって……そんな想いがいつしか、こんなにもお互いを苦しめる結果になるとは思っていなかったから。互いを知り過ぎたオレ達は、言葉を交えることなく触れていくんだ。 「ぁ、ん…ンッ、ぅ」 静かな部屋の中、響くのはオレの吐息と僅かな水音。 絡まる舌の熱さは全身を駆け抜け、そうしてオレの目元を潤ませる。 好きだって、言いたかった。 愛してるって、言いたかった。 でも、声に乗せて漏れていくのは淫らな喘ぎだけで。今更、オレの想いを言葉にして雪夜さんに告げる必要性は皆無な気がしてならなかった。 それなのに、オレに触れる雪夜さんの手からオレは迷いを感じ取っている。きつく抱き締められているのに、気持ちを掴むくらいの熱い抱擁とは違う。優しさは確かに此処にあるのに、いつも感じる蕩けるような甘さは微かに感じ取れるだけ。 何かが足りなくて、でもそれが何なのかは分からなくて。知り過ぎたと思っていたことが嘘のように、違和感の正体を探りたくなったオレは途切れたキスの合間に雪夜さんの表情を見る。 すると、鋭くオレを射抜く雪夜さんの瞳がオレの知らない色をしていたんだ。淡い色だとばかり思っていた雪夜さんの瞳、でもそれが今は何故だか深い闇のように映って。 「……やっぱ、やめねぇーか」 離れた唇が僅かに動き、呟いた雪夜さんはオレから視線を逸らしてしまった。 「これ以上、俺はお前を傷つけたくない。さっき、お前は俺を拒んだろ。それは正しい判断だったと思うし、今の俺は……さっきと同じように、お前を求めちまう。だからッ」 「だったら、なんだって言うんですか。さっきはさっき、今は今です。雪夜さんは、オレに雪夜さんの全てを教えてくれるって約束しましたよね。オレに拒否権がない代わりに……それは、今も変わりないことです」 オレは、雪夜さんの言葉を遮りそう言った。 知らない方が幸せなことはいくらでもあるだろし、きっと今だってそうだと思う。でも、オレがどれだけ苦しんだとしても、互いを知り過ぎたせいで、未来に別れがくるとしても。 「オレは、雪夜さんの全てを知りたい。今の雪夜さんに、今だからこそ、オレは抱いて欲しいって思うんです」 「たぶん、酷い抱き方しかできねぇーぞ。そんでも、いいのかよ」 「その方がいいんです。オレは、オレがまだ知らない雪夜さんを感じてみたい……オレは絶対に、傷、つきませんから」 オレが、誓のような、祈りのような宣言をすると、雪夜さんは小さな溜め息を零して。一瞬、鮮やかな淡い色の瞳をオレに見せた後、より一層深い闇の色をした瞳で笑った。 「ッ…ぁ、んんっ…」 すぐに重なった唇は、とても柔らかくて気持ちが良かった。おそらく、これがオレと出逢う前の雪夜さんなんだろうって……そう思うと寂しさや虚しさ、色々な感情が次々に湧き上がってくる。 けれど。 何よりも感じるのは、想いがつのるのは。 ……愛おしさ、だったんだ。

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