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絶望 11
心も体も、温まる一方だと思っていた行為がこんなにも寒く感じるのは、オレが雪夜さんとの関係に終止符を打つ覚悟でいるからなんだろう。
これが最後、これで最後。
そんなふうに思いたくはなくても、何処かで意識しなければ、オレは過去の雪夜さんを、今の雪夜さんを受け入れられないから。
「…お前は、本当にキレイだな」
オレが身に付けていた全ての布を奪い取り、産まれたままの姿を見下ろす雪夜さんはそう呟いて視線を逸らして。
「っ、ん…ぁ」
雪夜さんはオレに覆いかぶさり、一瞬……オレが知っている、大好きな雪夜さんが与えてくれるキスをしたんだ。迷いの中で表れる雪夜さんの気持ちが、言葉になる前にオレの元に届くような感覚。
本当は傍にいてほしいとか、こんなことやめようとか。様々な気持ちを感じ取っていくオレだったけれど、雪夜さんは決心したように唇を離すと、オレの体制をくるりと変えてしまった。
そして。
「悪ぃな、お前の顔見ながらすんのキツいんだわ」
そうオレの耳元で呟いた雪夜さんは、とても悲しそうにオレから距離を置いてしまった。一度だけソファーが沈み、その後すぐにフローリングを歩いていく雪夜さんの足音が聴こえてくる。
オレはうつ伏せの体制で、雪夜さんの方を振り返りたいと何度も思ったけれど。あんな言葉を残されたら、とてもじゃないけれど雪夜さんの顔を見ることなんてできなかった。
徐々に明るくなっていく室内で、全裸でソファーに身を預けるオレはなんとも馬鹿馬鹿しい。恥ずかしいと思う気持ちを通り過ぎ、オレは自分の滑稽さに唇を噛むことしかできなくて。
どのくらいの間、オレはそうしていたのか分からないけれど。ゆっくりとした足取りでオレの元に戻ってきたらしい雪夜さんは、オレの左足首に付いているアンクレットに触れていく。
ソレは、オレが16歳になった時、オレが雪夜さんのことを名前で呼ぶようになった時。オレの誕生日を初めて2人で過ごした時に、雪夜さんがオレにくれたプレゼント。
そのアンクレットに触れた雪夜さんの手は、そっと……ソレを、外してしまったんだ。
「…っ」
ずっと身に付けていたモノが外され、頭が追いつかないオレはどうすることもできないのに。足から滑るようにオレの首に辿り着いた雪夜さんの指が今度は、1番外してほしくない物に触れたのが分かって。
ひんやりとした空気に触れ、すっかり冷たくなったチェーンがオレから離れたことを認識するまで……オレは息をするのが精一杯で、思い切り噛んでいたらしい唇からは鉄の味がしていた。
約束も、誓いも、指輪も。
全てを失った状態のオレからは、涙が溢れ出していく。
死んでしまえたらどれだけいいだろうと、心の奥底で悲鳴をあげるように叫んでも。それが声になることはなく、流れる血と涙が生きていることを実感させてオレを嘲笑うだけだった。
それでも、オレの知らない雪夜さんを受け入れられるのなら……これも、幸せなことなのかもしれないと思うことにして。
オレは心の中で、今まで雪夜さんに抱かれてきた全ての女性に対し、血と涙に塗れ、汚れた笑顔で微笑んで見せたんだ。
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