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キミがくれたもの 1
雪夜side
俺が、全てを告げた日。
この家を出ると言った星は、本当に家から出て行ってしまった。
あの日、心に迷いを抱えたまま星とのセックスを終えた俺は、最低限の後始末だけをして。体力も気力も限界だった星に衣服を着せた後、寝室のベッドへ星を運んだ。
その後、リビングに戻った俺が見たのは悲惨な現実。
ラグに転がるベビーローションのボトルは普段、星が保湿の為に風呂上がりに使っているものだったのに。用途を変え、使用済みとなったソレは俺がした行為を裏付けていた。
その他にも、テーブルの上に無造作に置いた、アンクレットと2人分の指輪とチェーンは俺と星の物で。俺が自らの手で外した物は、複雑に絡まっているように見えた。
そして、最中に星が顔を埋めていたソファーには、いくつかの血痕が散らばっていて。傷つけたことが明らかなその痕は、星の気持ちの現われだった。
大切に、大事に、育んできた愛情。
愛のないセックスはもうしない、と。
そう思っていた俺は、この手で一番傷つけてはならない人を傷つけたのだ。
過去の俺を探るように、あの時の俺とカラダを重ねることを望んだアイツ。俺がアイツを傷つけることを最初から分かっていて、それでも俺を受け入れたアイツに、その心と姿を感じる度に俺は俺自身で己の傷を抉っていた。
星を後ろから攻めたのも、枷を外したのも。
あの時のアイツが望む俺に、少しでも近づくためだったけれど。
……愛しているからこそのあの行為に、星は気づいてくれただろうか。
心の内を見せることなく事を終えた俺たちが、互いに得たのは身体的な快楽のみで。普段なら、そこに混じるいくつもの感情を感じ取り、精神的にも満たされるはずの言動を、俺は星にさせなかった。
噛み付くことも、名を呼ぶことも、好きだと告げることも……あの日の俺は、他人を抱いていた過去の俺と同じだ。
痕を残さず、残させない。
けれど、ひとつだけ異なることは、目に見えない傷痕をお互いに深く残したことだろう。
好きだから、愛しているから。
だからこそ星は俺を傷つけ、そして俺は星を傷つけた。言葉にすればなんとも単純なことのように思えるが、実際はそんな簡単なもんじゃない。
2人で幸せになりたいと思っているのは、アイツも俺も一緒なのに。心の何処かで別れを見据えなければ、あの時の俺たちはカラダを繋げられなかったのだ。
愛情の代わりに、絶望を共有して。
星と出逢うまで意味を持たなかったセックスに、計り知れないほどの痛みがあることを俺は知る結果になったけれど。
幸せとは、愛情とは、なんなのだろうか。
それを互いに考える為に、星は俺の為に、俺の傍から離れる選択をした……ってことは、分かっているのだが。星が俺の元に戻ってくる保証は何処にもなく、俺が外した全てのモノはこの家に残ったままなのだ。
全部、俺の所為で。
星がこの家を出てから、今日で3日経つ。
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