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キミがくれたもの 2
星が家を出たと分かったのは行為後の夜、俺が仕事から帰宅した時のことだ。
あんなコトをした後でも、俺と星には仕事がある。ベッドで仮眠を取ったらしい星は、ボロボロの状態でありながらも朝から身支度を済ませ、白いワイシャツに袖を通して職場へと向かったらしい。
朝はまだ、仕事用のワイシャツが一枚なくなっていただけだったのに。
俺と星はあの後、顔を合わせていない。
リビングと寝室、それともう一部屋。
普段は換気する以外に滅多に足を踏み入れない部屋で、俺はサッカー関連の物に囲まれながら眠ることもできずに仕事をしていたから。
星が目覚めた時、家から出る前……パタパタと星が立てる物音には気づいていたのに、俺は星に声を掛けることができなかった。
分かりたくないことろまで理解し、受け入れたアイツ。そんな星の申し出を、俺が断る筋合いはない。
おそらく、俺が別室にいることを星も分かっていたはずだが。顔を合わせてしまったら、話し出してしまったら、俺も星も仕事どころではなくなる。
俺の憶測に過ぎないが、互いに同じ事を考え、あの日の朝はお互いに顔を見ることなく出勤したのだ。
正直、気掛かりなことはいくつもあったが、俺も星も連絡を取ることはしなかった。できなかったと言った方が、いいのかもしれないけれど。
だがしかし、俺は仕事どころではない気持ちを隠し、普段通りを装った。俺と星との間に何があったか知らない他人には、俺たちがどんな状態であれ、当たり前の日々としてしか捉えられなくて。
戸田先輩にはゾンビのようだと笑われ、スクール生からはコーチが老けたと馬鹿にされた。
それでも、どうにか業務を終えた俺が重い気持ちを抱えて帰宅した家に、恋人の、星の姿は、やはりなかった。
俺の勤務中に家を出る準備を整え、星は有言実行したのだろう。そうするつもりなのだろうと、薄々分かってはいたけれど。
いざ現実に直面したら、人は動揺する。
スマホの通知を確認し、連絡がないことに落胆して。星がいないと頭では分かっていても、俺は家の中をアホみたいに探し回った。
それなりに片付いていたリビングは、しっかり掃除がしてあった。二人分の衣服があったはずのクローゼットの中は、星の服だけがなくなっていた。洗面の歯ブラシも、仕事着のワイシャツも、全て星の物だけが失われていた。
ただ、テーブルの上にあったはずの指輪とアンクレットはソコになく、寝室の扉を開けた俺を待っていたのは黒い塊で。
ベッドの上で主人を待つように座っていたステラの首に、俺と星の分の指輪が二つチェーンに通してあり、ステラの左後ろ足には、星のアンクレットが巻き付けてあった。
そして。
座っているステラが抱えるようにして持っていた物に目をやった俺は、そっとソレを手に取った。
夜空をモチーフにしたような、淡い色の封筒。
そこには小さく、星の文字で『雪夜さんへ』と記されていたのだ。
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