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キミがくれたもの 5
「……場所、代われ」
コーヒーを淹れ終わり、優専用のマグと自分のマグを持ってソファーの前に立った俺は、優にそう言った。すると優は無言で立ち上がり、思いの外あっさりとラグの上に移動する。
「ん、これ優の……で、お前はどこまで知ってんだよ」
テーブルの上にマグを置き、脚を組んでソファーに腰掛けた俺は優の様子を伺うけれど。コーヒーが入ったマグを手に取るも無言を貫く優は、先程の意思を曲げないつもりらしい。
そんな優の態度に俺は若干イラつきつつ、煙草の箱に手を伸ばす。
「星と俺のこと、光も含めてお前らが何処まで知ってんのか知らねぇーけど。ある程度、話は理解してるって前提で話すぞ」
「ああ、それで構わない」
取り出した煙草を咥えて俺が優に告げると、優は頷きそして笑った。
「星は、アイツは、俺に手紙を残してこの家を出て行った。俺はそれを止めなかったし、止める権利もなかった。だからアイツはあの日、普段通りに朝から出勤したんだろうけど……」
そこで俺は一旦言葉を区切り、煙草に火を点け一呼吸した後に気掛かりだったことを声にしていく。
「腫れた目も唇も、隠すことなく仕事なんてできねぇーだろ。たぶん、アイツはランに帰れって言われて一度は帰宅して再び家を出た……んで、ここからはよく分かんねぇーけど、星は光と会ったんだと思う」
真面目に出勤した星には関心しながらも、ランは星を見て全てを悟ったはず。俺が星に飛雅の話をしたことも、その所為でアイツが傷ついたことも、ランは気づいているだろう。
仕事ができる状態じゃない星に、ランは休みを与えたはずなんだ。その期間がどれ程かなんてところまでは、俺には分からない。
ただ、そうではないのかと。
何の根拠もないが、俺はそう考えていて。
ランに促され光と会ったのか、星が自ら光と連絡を取ったのか……不明点は山ほどあるが、俺は星やランが取るであろう言動を思い浮かべて溜め息を零すけれど。
「ほう、それで?」
俺の考察を聞いていた優は、一瞬の間を狙って問い掛けてきて。
「それでってお前な……まぁ、いい。俺が思うに、星がここから出た日は、アイツ実家に帰ってないはずだ。おそらく、帰る前に光と会って、とりあえず兄弟揃ってお前ん家に避難したんじゃねぇーの。そうじゃなきゃ、お前が此処にいるなんて有り得ねぇーし」
実家に帰る選択を止めたのは、光で間違いないだろうと。久しぶりに両親に会う星が、いきなり帰ってきて、更には小さな外傷があったら家族は当然心配する。
それを恐れた光は、隠れ家としては申し分ない優の家まで星を連れ出した可能性が高いと思ったのだが。
「……そこまで恋人のことを理解していて、何故お前は星君を手放した?」
俺の推測を否定することも肯定することもなく呟いた優に、俺は言葉を返すことができなかった。
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